ランぶる・イン・ざ・ジャンぐる……


  ボクシング中継はノーカットで

 最近、深夜テレビののボクシング番組で、ラウンドをカットして放映する構成が増えている。比較的動きの少ないラウンドをカットするという発想は、たしかに以前からあった。ただ、それは、「一時間たらずの放映時間の中に、複数の注目カードや好試合をどうしても収めたい」という止むを得ない場合に限られていたはずだ。
 ところが、最近行われるラウンドのカットは、たいした内容もないインタビューや、放送席の駄弁りを挿入するために「本編」たる試合をカットしているパターンが目立つ。これは、ボクシングの本質を無視した暴挙である。
 そもそも、スポーツの試合は日常の次元とは異なる張りつめた時間の中で進行するものだ。特に、一秒でも気を抜いたらKOされかねないボクシングは、試合中はずっと濃密な時間が続行する。一見動きのない時間帯でも、選手たちは激しく戦い続けているのだ。
 マラソンの中継を途中カットしたら、視聴者は怒るだろう。30分間、順位が一切変わらないまま淡々と走り続ける場面にこそ、マラソンのもっとも激しい戦いが見えることがあるからだ。サッカーやラグビーだってそうだ。得点シーンだけをダイジェストで見て、「試合を見た」胸を張れる人はファンとは言えないだろう。
 シュートが決まらなければ「ダメージ」にはならないサッカーでさえそうなのだ。サッカーよりもはるかに精密なボクシングの試合をカットするような製作者は、「どうせボクシングなんて、こんなもの」と、ちゃちな自己主張の場にしてしまっているのではないだろうか。
 放映するテレビ局が売り出しそうとしているボクサーが幸運な判定に救われた場合、優勢なラウンドだけを放映しようという視聴者を馬鹿にした番組作りも増えてきた。しかし、スターたりうるようなボクサーは、本当は、一度や二度の「疑惑判定」などで輝きを失いはしない。
 ボクシングの試合は生きものであって、切れば血が流れるのだ。ボクシング番組を作る方々に、「カットするな」とは言わない。しかし、切るなら、血を流すに値するだけの「料理」をしていただきたい。

 

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