ランぶる・イン・ざ・ジャンぐる……


  ロイ・ジョーンズ、あまりの異能

 ジョーンズ―ルイス戦の開始ゴングが鳴ってあらためて思ったのは、ヘビー級とそれ以外のクラスでは、ボクシングの質が全然違うのだ、ということだ。その差は、「柴犬JONES.JPG - 30,716BYTESと秋田犬」の違いでなく、「犬と狼」の違いだ。見た目は似ていても、「殺傷能力」において大き過ぎる差があり、同類同士の戦いにおいて勝負を分けたファクターも、ことごとく無効になる。
 ジョーンズは、L・ヘビー級までは一流の強打者だった(S・ミドルまでなら超一流)。その上で、スピードとテクニックで彼に優る者はなかったから、当然のように無敵だった。しかし、ヘビー相手では、それまでジャブで止まった相手が止まらず、「KOパンチ」が「軽打」になってしまう。そうなれば、ほとんどの技巧は意味を失ってしまうのだ。
 過去「L・ヘビー」がヘビー級に対抗するには、スピードと柔軟性を生かしたヒット・アンド・ラン戦法しかなかった。ビリー・コンはそれをやったが、ジョー・ルイスにフィニッシュ・ブローを打ち込もうとして逆転KOを食った。ボブ・フォスターはたぶんL・ヘビー史上最高のパンチャーだが、モハメド・アリのジャブにも及ばなかった。マイケル・スピンクスだけが、老ラリー・ホームズの出足のなさをついて逃げ切った。
 しかし、誰よりも軽いジョーンズは(パターソンの方が軽かったという新聞記事もあったが、ジョーンズが上着を着て靴を履いていたことを忘れている)、ルイスの突進をかわすのではなく、それを強打で止めた。
 あろうことかこの小男は、初回から一発一発のパンチに渾身の力を込め、後足のキックを存分に生かして打ち出していた。マラソンを、百メートル走のダッシュで走るようなものだ。僕は、「無茶だ。さしものジョーンズも、ヘビー級の壁を前にスタイルが崩れてしまった」と思った。ところが、ジョーンズは涼しい顔で、この力みかえったパンチを出し続け、そのうちリズムまで出てきて、ルイスを一方的に打ちすえてしまった。
 生涯初のヘビー級戦で、こんなSFまがいの作戦を選び、それを成功させてしまったジョーンズ。その身体能力、心身のタフネス、洞察力、すべてが驚異だ。

 

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