ラテンの天才のスタイル
S・ウェルター級注目の一戦は、トリニダードが見事なTKO勝ちを飾った。これで、約1年の間に、デラホーヤ、リード、バルガスと、3人の無敗の世界王者、2人の金メダリストを破ったことになる。 まさにゴージャスな対戦相手を連破してきたわけで、現在最高のボクサーと言っていいだろう(ロイ・ジョーンズの依然として圧倒的なパフォーマンスも看過できないが、対戦相手の質が違う)。 今後はミドル級に進出し、まずはジョッピーのWBA王座を狙うというが、かなり有望そうだ。そんなトリニダードの図抜けた強さと安定感は、彼のスタイルによるところが大きいように思う。彼は典型的なラテンの天才タイプだ。すなわち、決して才能のみに頼らず、基本テクニックを重視し、きわめてトラディショナルなボクシングに徹している。逆にそれがますます彼のパンチ力やディフェンス力を増幅してもいる。 北米の天才的ボクサーは、自らの天賦のスピードや勘に強く依存したスタイルになることが多い。アリやレナードのボクシングを凡庸なファイターが真似をしても、ろくなことにはならない。 その点、プエルトリコやベネズエラ、あるいはアマのキューバのボクシングは、きわめてハイレベルでありながら、すべてはオーソドックスな基本技の延長線上にある(メキシコは色々なのがいる)。しっかりアゴの前にそろったガード、標的までの最短距離の軌道をトレースする左ジャブや左フック、肩や腰の回転が効いた右ストレート、左右アッパー……。 すべてがクラシックなまでに基本通りだ。これなら、学習するに値する。……だが、これがまた真似できないのである。おそらく、ほとんどのボクサーは、基本的動作の有効性を感じつつも、それが完璧には遂行できないため、次善の方法として「それなり」にボクシングを崩していくのだろう(辰吉が結局ガードを上げなかったのも、そういうことだと思う)。 子供の頃からボクシングに親しんでいる上、優れた指導者の多い中南米で育ったボクサーだけが、ああいう王道のボクシングをすることができるのだろうか。もしそうだとすれば、日本人が乗り越えねばならぬ壁はやはり高い……。
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