ランぶる・イン・ざ・ジャンぐる……


  21世紀の強打法

 その昔、ジャック・デンプシーのパンチがあまりに効くものだから、人々は「ひょっとして、グローブの中に石でも持ってるんじゃないの? 」といぶかったという。
 だが現在では、デンプシーのパンチの「秘密」について、ある程度技術論で語ることができる。デンプシーは、当時としては画期的なフックを打っていた。ヒジをきちんと曲げ、肩の回転を生かし、フォロースルーのよく効いた左右フックを打ち抜いていたのだ。しかも、独特のウィービングの動きさえ、パンチにウェイトを乗せる作業に直結していた。
 そんな「強打法の革新」が、数年前からまたボクシング界に起こっているようだ。つまり、新しい技術を身につけたボクサーたちが、これまででは考えられなかったようなパンチングパワーを見せつけているのである。
 僕が、この「強打法」をあらためて確認したのは、木村鋭景‐雄二・ゴメス戦を見たときだ。ゴメスのパワーは、技術的には優る木村を完全に圧倒した。同じフェザー級でありながら、これほどのパワーの差。木村を気の毒にさえ感じたのは、僕だけではないだろう。
 ゴメスのこのパワーを「外人だから」、「中南米系だから」ということで片付けてはならない。これは「技術」なのだ。リングサイドで、あらためてゴメスのスタイルを見て、僕はほとほと感心した。一見素人臭くぎこちないゴメスだが、キャンバスに着地したつま先から拳のナックルパートまで、動きがとぎれずにつながっており、パワーがもれなく伝わっている(これは、パワーリフティングや重量挙げでは基本技術である)。
「ロイ・ジョーンズや、ハメドと同じだ」と僕は思った。一見奔放・野放図に見える彼らのスタイルだが、パンチを出すときには、強靭なふくらはぎの筋肉をぞんぶんに使って、キャンバスからパンチングパワーを吸い上げている。「パンチ」というより「キック」の威力なのだから強いはずだ。
 ハメドの肉体を見れば、従来「強打に必要」とされてきた筋肉は少なく、足だけが異様に太いことに誰もが気づくだろう。比較的上半身の貧弱な日本人ボクサーは、今こそ、彼らの強打法を研究・習得すべきではないだろうか。

 

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