ランぶる・イン・ざ・ジャンぐる……


  テクニシャン本望の味わい

 移籍問題でも話題となった本望信人は、非常に興味深いスタイルの持ち主だ。この選手をどう評価するかで、その人のボクシング観が問われることになると思う。
 本望はブランク直前に、現日本フェザー級王者の洲鎌栄一に判定勝ちを収めている。この試合は、洲鎌の地元関西で行なわれたが、目撃した洲鎌ファンたちの中は「あんなんボクシングとちゃう」と吐き捨てる人もいたという。「ホールド、バッティング、汚い手ばっかり……」というのだ。
 一方、関東の関係者には、「本望が洲鎌に勝つのは十分に予想していたし、予想通りの見事な試合で勝った」という人もいる。どうやら、本望のスタイルは見方や立場によって評価が分かれるようだ。
 だが、僕の見るところ、本望はけっして「汚い」ファイターではない。正統派で本格派のテクニシャンである(むしろ、リック吉村や長嶋健吾のような良い意味でダーティなワザをお勧めしたいくらいだ)。ヒザや踵をじつに柔らかく使うため、フットワークは小憎らしいほどに“フェザー・タッチ”だ。バランスが良く、左右どちらからでも好きなタイミングで手が出せ、しかも滑らかにコンビネーションが打てる。
 特筆すべきはジャブだ。体勢を崩さずに速いジャブが打てるため、どんな距離からでも、相手をのけぞらせるようなジャブをダブルはおろかトリプルでも打てる。その上、ガードが固く、相手の動きを読んでパンチを弾き飛ばす本当の“ブロッキング”ができる。
 ただ、もともと強打者ではない上に攻撃の幅がまだまだ狭いから、試合ぶりは地味だ。試合運びも、うまいとは言えない。洲鎌に勝った星がなければ、彼に注目する人はまだまだ少ないだろう。しかし、テクニシャン好きな人なら、本望の流麗なボクシングをわくわくしながら見るのではないだろうか。
 洲鎌、ゴメス、木村、越本、さらには長嶋、キンジと、日本のフェザー、S・フェザー級は個性派スター揃いだ。本望はダークホース的存在だが、徐々に研究をされるだろう(“パワフル”という、幻惑的な看板も外したことだし)。ライバルたちとしのぎを削りながら、日本ボクシング史に残るような技巧派に成長して欲しいものだ。

 

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