異国で見る日の丸
「ドイツ語の話せるスポーツ関係者」ということで、僕は5月末にソウルに招待されて、日本、韓国、ドイツ、デンマークのスポーツ関係者、メディア関係者がドイツ語でサッカーについて語りあうというイベントに参加した。4年後にはサッカーW杯のホスト国になるドイツはもう「やる気」なのだ。 日本人の参加者は僕と国士舘大学の山本徳郎先生の2人。外国で、不特定多数の人を相手に「講演」するのは初めてだったので、結構緊張した。僕は古いタイプの人間なのか、あるいは田舎者なのか、パスポートを持って出国する時はいつも「ここより先は……」という気持ちになる。慣れ親しんだ言葉はもとより、価値観、倫理観が通用しない場所に行くかもしれない、という緊張感に襲われるのだ。 そんなとき、「やっぱり、ボクサーが海外での試合で勝つのは大変だなあ」と思う。何かものを食べるのでも、必要な買い物をするのでも、言葉と文化の壁を乗り越えなくてはならない。もちろん、僕なんかよりもずっと大胆不敵に(本誌中井カメラマンのように)、すいすいと異国の雑踏を渡っていく才能を持っている人はいるが、それでも基本的に状況は同じだと思う。まして、「勝負」をしに来たボクサーの場合、消費される心的エネルギーは相当なものだろう。 実際には、ソウルの関係者の方々は、我々を含む外国からの参加者をとても親切に迎えてくれて、実際には生活上の不自由はまるでなかった。街の居酒屋でも、わずかな朝鮮語と英語でサッカーやボクシングの話をすると、「わたしも柳明佑は大好きでした! 」などと言って肩を組んでくれた。それでも、根本的な緊張は残る。外国はあくまでも「外国」なのだ。 そんなことを感じながら、シンポジウムの会場入りしたら、壇上に韓国、ドイツ、デンマーク国旗と並んで、日の丸が掲げられていた。あれは、山本先生と僕のために掲揚されているのだ! まして、韓国の人が掲げてくれた日の丸である。そう思うと、「ちゃんと仕事をしなければ」という気持ちがこみ上げてきた。僕の家族が暮らし、白井、原田、具志堅を生んだ国ニッポン。僕はちょっとだけボクサーになった気持ちで、日の丸に「健闘」を誓ったのだった。
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