ランぶる・イン・ざ・ジャンぐる……


  “勝負師”には愛を

 小島英治が豪打ムニョスに果敢に打撃戦を挑み、2回で玉砕した。翌日の各スポーツ紙の多くは、「早過ぎた世界挑戦」、「大き過ぎた力の差」と、“ミスマッチ”を強調する見出しを並べたてた。たとえば日刊スポーツは、「テレビ放送がまったくなかったのも挑戦者の実力に“?”がついたからだとされる。5分余りで終わった試合が答えだった」と“ミスマッチ”を強調している。
 まあ、勝負の世界だから、負けたらこの程度のことを書かれるのは覚悟しなければなるまい。しかし、「5分あまりで終わった試合」は何の「答え」なのか? 「こんなミスマッチは組むべきではなかった」という「答え」が示されていというのなら、それはちょっと違うだろう。
 もとより、小島は戦前の予想では大きく不利だった。しかし、彼は「作られた挑戦者」ではない。OPBFタイトルを獲得し、前哨戦では世界戦経験者の浅井勇登に判定で完勝しているのだ。勝算は大きくはなかったとはいえ、世界挑戦を許されるだけの実績は残している。一方のムニョスは、穴を見せながらの王座奪取後、これが初防衛戦だ。狙っていい“大穴”だった。この試合が行われるべきではなかったかのような書き方をするスポーツ紙記者は、小島の実績や挑戦の意図も否定した上でそう主張するのだろうか。
 それに、「2回KO負けは判定負けよりもひどい惨敗」という認識も大きな間違いだ。ムニョスに対しての小島や、ポンサックレックに対しての内藤大助は、本当にタイトルを奪おうと思うなら、序盤とりわけ立ち上がりにひと勝負しかける必要があった。弱いからではない。持ち味からいって、そうだ。プロの記者なら、「勝負師」よりも「臆病者」を高く評価するようなことを書いてはならない。
 世界戦の1ラウンドは、宝石のような経験のはずだ。「もう少しやりたかった」は、小島の本音だろう。しかし一方、世界戦とは生涯に二度とは巡ってこないかもしれないチャンスなのである。序盤に思い切って白兵戦を挑んだ戦略は、たとえ成功の確率が20パーセント程度だったとしても、けっして間違ってはいない。
 

 

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