池田タカオさんからの投稿

 

 ボクサーの移籍問題について、僕も大好きだった元フェザー級トップボクサーの池田タカオさんから投書をいただきました。大変光栄です。喜びとともに全文掲載させていただきます。

 池田さん自身、日本国内でのジム移籍を求めていましたが果たせず、結局海外を放浪してまでボクシングを続けるという、壮絶なリング生活を全うされた方です。そんな池田さんの言葉ですので、この問題に関心をお持ちの方はぜひ耳をかたむけていただきたいと思います。

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 初めまして、私は元ボクサーの池田 高雄というものです。

 もちろん本望選手らの移籍に関しての投書です。同じ様な経験をした元ボクサーの私には発言をする権利と義務があると思ったのです。 まず一年ぶりに日本に帰って来て移籍問題が大きく公けに取り上げられてる事に驚き、そしてファンからあたたかいメールを送られている本望選手らをうらやましくも思いました。

 ご承知の様に元来、移籍問題というものはボクシング界においてタブーであり、それゆえジムとのいざこざで人知れず消えていったボクサーがゴマンといますし、途中から負けがこんだり、覇気のない試合をする場合はだいたいジム側とうまくいっていないパターンが多いものです。そしていつのまにかひっそりと消えて行きます。彼らはボクシングが嫌いになってやめた訳ではないのでリングへの思いをずっと引きずったままこれからの人生を生きて行く事になります。

 はっきり言ってなぜ、契約金等といったものを一円ももらわず逆に入会金や月謝を払って、しかも近所だからといった様な簡単な理由で入ったジムにボクシングをやめるまで、ずっと縛り続けられなくてはならないのでしょうか。 100人に聞いたら100人がおかしいと思うはずです。そう思わない人間はどこかが腐ってるとしか思えません。

 私が一番思うのは、ただ「強くなりたい」 「チャンピオンになりたい」という純粋な気持ちでボクシングを始めて結局大人のエゴや欲望に振り回される、あまりにも無力なボクサー達。 そんな彼らを守れる機関やルールが必要ではないかという事です。
 
 本望選手らの件が解決したとしても、なおこれからも移籍問題は減るどころか増える一方だと思います。 なぜなら今後畑山に憧れてジムの門を叩く若者は数知れずだと思いますが、上からの無意味な押しつけに反発する現代の若者が戦前から続く旧態依然とした今のボクシング界の制度、しきたりになじめるとは思えないからです。
 
 畑山、徳山両世界チャンピオンは移籍組ですし、彼らがもし移籍できなかったら世界チャンピオンにはなれなかったと思います。 世界チャンピオンになるには選手の実力はもちろん
ジムとの相性、そしてジムの力が不可欠です。 今の日本では、たまたま入ったジムで相性のあうトレーナーや会長に出会い、なおかつそのジムに世界戦を組める力がある場合に限り世界チャンピオンに成るチャンスがあると言えます。
 
  それを運の一言ですますのは簡単ですが、その運という一言はボクシング界のしきたりの前にはあまりにも無力なボクサー達にとって極めて無責任な言葉だと思うのです。ボクサーが運や偶然といった不確かなものに翻弄されるよりも自らの意志でボクシング人生を全う出来る様になってもらいたいのです。 
 
 ボクシング関係者は移籍の完全自由化を認めると、つぶれるジムが続出すると危惧されてますが、そんな簡単にはつぶれないと思います。移籍を望む者はそのジム全体の一握りでしょうし、全んどの練習生達は全く関心を持っていないと思うからです。一般の練習生の月謝に頼る小さなジムには移籍の自由化による激震はこないと思いますし、もしそれで練習生があらかたいなくなり、つぶれるジムが出たとしても、それは当然の結果だと思います。自助努力をしない会社がつぶれるのは資本主義社会の常識ではないでしょうか。
 
 経営が生きずまり自殺までする経営者がいるという現代の日本で従業員でもあるボクサーから搾取し続け、その上自由な行動も認めないという前近代的なこのやり方が通用する日本のボクシング界はどう考えてもおかしいです。
 
 私にはまず三年という契約期間すらあまりにも一方的だと思います。しかもその契約はまったく無力でボクサーにとってなんの意味も持ちません。結論を言いますと、ボクサーは最初から自由であるべきだと思います。
 
 もしジム側が契約を強要してきたら、その時はそれに見合う契約金を支払うべきです。それがあってこその移籍金ではないでしょうか。契約金というプロスポーツ選手にとって不可欠なものがすっぽりと抜け落ち、移籍金だけが我が物顔で闊歩するという現状はプロスポーツとは名ばかりのやくざの世界ではないでしょうか。
 
 私はメキシコでは三つのジムを掛け持ちで通うという日本では考えられない事をしてましたが、その事はどのジムの関係者も知っていましたが、会長からとがめられた事は一度もありませんでした。昨日Aのジムであったプロボクサーが今日はBのジムで練習をしてるといった事もありました。彼らは簡単にジムを代わりますし、周りの人も何も言いません。元世界チャンピオンのエンリケ サンチェスはロマンサジムから他のジムに移り、その後また戻ってきたのですが、別にギクシャクせず普通にやってました。
 
 AのジムからBのジムに移っても、逆にBのジムからAのジムに移って来る人もいるわけですし、いくらそのジムに力があるとはいえマッチメークしきれる選手の数も、資金源も限られているわけですから、おのずと受け入れ可能な人数に絞られると思います。大きなジムにはそれなりの欠点もありますし、小さなジムにはそれなりの長所もあります。よってボクシング関係者が心配しているような、大きなジムにボクサーが集中するという事もそう簡単には起きないと思うのです。
 
 移籍の自由化によりジム間の風通しが良くなり、いろんなタイプのボクサーとスパーリングをし練習を見れれば、それだけでボクサー全体のレベルは数段アップすると思います。強くて魅力的なチャンピオンが数多く出ればそれだけでボクシング界全体が盛り上がるわけですし、移籍の自由化はボクシング関係者にとっても悪い話しではないと思うのです。しかし視野狭窄症に陥った人たちにはまったく周りが見えないようですねェ。
 
 移籍問題がこれだけ盛り上がった事はいまだかつて無かったわけですから、心ある関係者やファンの皆さんにはこの機を逃さず突き進んでもらいたいと思っています。長々と勝手なことを書いて申し訳ありませんでした。全てのボクサーに平等な権利を与えてもらいたい、という思いで書かせてもらいました。
 
 では失礼します。 


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