●飯田覚士 対 ヘスス・ロハス

 (WBA世界S・フライ級タイトルマッチ:12月23日・愛知県体育館)

飯田 覚士

29歳

25勝11KO1敗1分

ヘスス・ロハス

34歳

31勝16KO7敗2分1NC

 

じつに予想が難しいカードだ。
大方の予想は、巧者とはいえ34歳と高齢のロハスを、飯田が持ち前のたくましさと粘り強さで押し切るだろう、というものだろう。それもありえるシナリオだ。だが、僕は別の結果も大いにありうると思う。

まず不安材料なのが、飯田は世界戦で持ち味を十分に出したと言えるのはヨクタイとの2戦だけだ、という点だ。井岡戦は熱戦というよりは、日本タイトルマッチとしてもレベルが最高度とは言えない試合だった。ガンボア戦も、1位を退けたという点では無論評価できるものの、たくましさに欠ける挑戦者の後半の自滅に救われた観も(きびしくいえば)あった。

飯田のような、けして素質に輝くタイプではない選手が世界レベルまで上りつめた場合、いわゆる天才型の選手よりもむしろ上がり目が大きいことが多い。かつてロハスと引き分けた(僕は勝っていたと思うが)レパード玉熊、あるいは鬼塚勝也といったタイプは、「弱い自分」も知っているだけに、逆にちょっとやそっとでは崩されない牙城を築き上げた。

飯田にも、僕はそういうものを期待している。しかし、ここまでの世界王者・飯田は、持てる能力を発揮しているとは思えないだけでなく、上がり目のあるボクサーには絶対に必要な「ビジョン」が感じられない。「こうやって俺は強くなるんだ」、「この相手にはこうやって勝つんだ」というビジョンが見られたのは、ヨクタイとの試合だけだった。

ロハスは逆に、勝利へのビジョンを見つける嗅覚が鋭いボクサーだ。玉熊への挑戦試合でも、玉熊の中間距離での連打が恐いと見て取るや、持ち前のスマートなボクシングを捨て、終始頭をつけた超接近戦で戦い抜いてしまった。完全な成功こそ収めなかったが、玉熊の持ち味を殺したことはたしかだ。

今回の試合で、飯田がもし確たる勝利のビジョンなしに、「とにかく押し切ろう」くらいのプランでリングに上がるなら(その可能性が大きい。福田洋二氏は名トレーナーだが、その「指導力」は選手を猛練習に向かう気にさせる、という意味での力のように思う)苦戦は必至と見る。

飯田の弱点のひとつはボディーにあるが、おそらくロハスはそれを知っているか、少なくとも試合の序盤で嗅ぎ取るだろう。ロハスの重いパンチが執拗に飯田のボディーを叩き続けるとき、飯田は終盤までパニックに陥らずに済むだろうか。

飯田はすでに29歳だ。アマチュアも経験している飯田は、「王者年齢」は若いが、実年齢とボクサー年齢はすでに高齢に達している。34歳で第一線に立ち続けるロハスの方が、少なくとも軽量級では例外的な存在なのだ。なんとなく期待通りにならないこのところの飯田のファイトが「下り坂」を意味していないことを祈りたい……。

 


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