●飯田覚士 対 フリオ・ガンボア

 (WBA世界J・バンタム級タイトルマッチ12回戦:7月26日)

飯田覚士

27歳

24勝11KO1敗1分

フリオ・ガンボア

27歳

22勝14KO2敗

 本業でどたばたしているうちに、もう試合当日になってしまったが、いちおうプレビューをアップしておこう。これは、井岡戦ですっかり威信を削がれた観のある飯田の名誉回復戦である。強豪王者と目されたヨクタイと2試合続けて好試合を演じた時は、誰もが「あの飯田(つまり、元アイドルボクサー)が、よくここまで」と目をみはったはずだ。

それが井岡戦では、すでに過去のボクサーと思われた挑戦者に、完全にペースをかき乱されて大苦戦。判定も微妙なものとなったため(僕自身は、明白に飯田の勝ちだと思ったが、そう見ないウォッチャーも多かった)、飯田株は暴落してしまった。

今回の挑戦者ガンボアは、そんな飯田が威信をかけるには良い相手だ。指名挑戦者であり、戦績もよい。サウスポーの洗練されたスタイルの持ち主であり、同タイプの飯田と噛み合いそうだ。好内容でこのガンボアを退けることができれば、井岡戦は「初防衛の難しさ」あるいは「単なる不調」ということですまされるだろう。

予想としては、飯田が思い通りの試合を展開できる公算大と見たい。ガンボアはまとまりが良く、テクニックの多彩さ、柔軟さではおそらく飯田を上回るだろう。しかし、飯田を攻略するには、いささか粒が小さい。

飯田はたしかに、ヨクタイ第2戦の後半でスタミナ切れでよれよれになったし、アリミ・ゴイティアにはあっさりとマットに沈められた。
しかし、むしろこれらのシーンは、飯田の意外なほどのたくましさの証明でもある。豪打者ヨクタイに追いまくられながらも、けして足を止めずに逃げ切った終盤は飯田がいかに鍛練をつんだボクサーであるかを示していたはずだ。
また、ゴイティアに倒された場面は、直前にボディー打ちで王者を弱らせ、勝負に出た結果だった。飯田はその見かけと戦績からはうかがえないほどに、タフでパンチのある選手なのである。加えて、かねてより評価の高いボクシング頭脳もある。しかも、スピードは周知の通り世界でも一流だ。同タイプのガンボアが多少巧妙なボクシングをしようと、結局は打ち勝つなり、逃げ切るなりの勝利パターンが見えてきそうだ。

逆に、飯田に欠けているのは、天賦の才と呼べるようなセンスだろう。井岡戦で暴露されたように、想定していなかった試合展開になると、そこではもはや飯田の頭脳はネガティブにしか働かず、パニックに陥ってしまう。飯田タイプのボクサーにとって、戦前のシミュレーションに穴があるようなことは、けしてあってはならないことだ。

自らを「凡人」とみなし、最悪の場合を想定することで安定した戦略を練り上げたのは鬼塚勝也だったが、鬼塚よりもさらに不器用な飯田は、この姿勢をより徹底する必要があるだろう。ガンボア戦は、飯田が井岡戦をふまえて、周到な準備を心技体の全ての面においてなしとげているかどうかの試金石となる。