展望: オスカー・デラホーヤ対フェルナンド・バルガス

 WBA・WBC世界S・ウェルター級統一戦12回戦:9月15日・ネバダ州ラスベガス

オスカー・デラホーヤ(WBC王者)

29歳

34勝27KO2敗

フェルナンド・バルガス(WBA王者)

25歳

22勝20KO1敗

 

 トリニダードとモズレーに負けて、たしかにデラホーヤの「市場価格」は下がった。だが、彼の才能・戦力に対する評価はそれほどさがったわけではない。敗戦はいずれも、カラフルな攻防をくりひろげた末の、僅少差の判定負けだった。トリニダードやモズレーといった、歴史的強豪(もちろんデラホーヤもそのひとりだが)に対しても相当程度に対抗できることを証明したことも事実だ。

 バルガスも、唯一の敗戦となったトリニダード戦で、むしろさまざまな能力を「証明」している。序盤で試合が終わってもおかしくない最悪の立ち上がりだったにもかかわらず、素晴らしい闘志とスタミナで、粘りに粘り、何度かトリニダードを困惑させる場面があった。回復力、闘志、終盤のスタミナ……、トリニダードだから、最終回にフィニッシュできたのかもしれない。

 その上、トリニダード、バルガスとも、それぞれにまだ上がり目のあるファイターだ。デラホーヤは、まだ体が大きくなってきている。これまでは、ウェルターやS・ウェルターのタフ・ファイター相手には決定力を欠いたこともあったが、いまのままパワーアップし続ければ、たとえばホプキンスにも十分対抗できる可能性がある。また、バルガスはまだ若く、細かい技術、とくにディフェンスやショートパンチの交換におけるスキルの進歩が大いに期待できる。

 今回の対戦は、「敗者復活戦」ではなく、まだまだ「上昇気流」に乗っているファイター同士の激突と見ることもできる。それだけに興味深く、予想も難しい。

 これまでに両者が見せたパフォーマンスを比較すれば、「デラホーヤ有利」の予想が妥当なところだろう。スピード、ディフェンス、細かい攻防の上手さで、明らかにデラホーヤが上だ。いまや、耐久力さえデラホーヤのほうに軍配があがるのではないか。バルガスのほうが優っているのは、全身の馬力、ボディブローのうまさ、それにスタミナあたりに限られるのではないだろうか。

 「不利」をくつがえす材料がバルガスにあるとすれば、遺恨も含めた「闘志」ではないか。すなわち、バルガスの勝機は、集中力とガッツを最高度に発揮したときに生まれてくるような気がする。

 集中力が必要なのは、特にディフェンスにおいてだ。デラホーヤとバルガスの最大の差は、至近距離で致命的な一打を食ってしまう「スキ」の頻度だろう。バルガスがトリニダードに敗れた試合でも、バルガスがティトを交代させる場面はいくらでもあった。しかし、決定的なパンチはすべて、トリニダードの拳によるものだったのだ。

 今回、バルガスは、一発のショートパンチ(特に、左右ショートフック)をもっと警戒して戦わなくてはならないし、たぶんそうするだろう。とりわけ、体が温まる前に痛烈なダメージを受けるような展開だけは避けなければならない。「トリニダード戦で、ずいぶん自分のボクシングについて反省した」というバルガスの言葉には、そういう意味も含まれているはずだ。

  致命打を食わずに、中盤以降に入っていけば、デラホーヤは失速する場合がある。バルガスは連打の回転ではデラホーヤを上回ることが可能だ。何より、バルガスには若さがある。中盤以降にデラホーヤを勢いで上回ることができれば、体格でも一回り大きなバルガスにが生まれてくる。テクニックやスピードやパンチ(の決定)力では劣るバルガスだが、全身の総合的な筋力では上だ。

 あくまでもデラホーヤ有利、ただ、バルガスも、ミスをおかさなければそう簡単にはやられないだろう。バルガスが持ち前の闘志にガソリンを注いで、前半を注意深く、しかもハードに戦い通すことができれば、徐々にチャンスが膨らんでくるだろう。

 


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