展望: 徳山昌守 対 ジェリー・ペニャロサ

 WBC・S・フライ級タイトルマッチ12回戦:9月24日・横浜アリーナ

徳山 昌守

27歳

24勝6KO2敗1分

ジェリー・ペニャロサ

30歳

43勝28KO3敗2分

 最強挑戦者を迎えて、徳山の正念場であることはたしかだろう。過去3戦、世界戦で圧勝を続けている徳山だが、まだすべてを証明したわけではない(意地悪な見方をすれば、だが)。゙(チョー)との2試合は、前王者の減量苦からくる衰えと相性のよさも勝因に数えることができる。名護明彦は天才的パンチャーだったが、絶望的に未熟な点もあった。

 その点ペニャロサは、上り坂ではないにせよはっきり衰えているわけではないし、テクニック面でばや名護よりは完成度が高いボクサーだ。実際ランキングも1位であり、現在最も危険なチャレンジャーであることは間違いない。徳山が過去に勝てなかった試合(2敗1分)がすべてフィリピン人を相手にしていることを考えると、相性の点でも不安は残る。

 徳山は、なんとも魅力的なボクサーになった。パンチとか、テクニックとか、世界レベルで特別に秀でた武器があるわけではないけれども、相手にとってのやりにくさと闘志があり、頂点に立ってなお若さと未知の魅力にあふれている。僕は、徳山を「日本(朝鮮)のサルバドール・サンチェス」と呼びたい。サンチェスも、「ここが強い」というのが言い難いボクサーで、見ようによってはかなり荒削りで欠点もあったが、スピードとなめらかさ、それに相手の持ち味を殺してしまう独特のクレバーさがあり、結局無敵だった。徳山も、サンチェスに似た底知れなさがある(でも、交通事故は起こさないでね)。

 徳山自身、自分の最大の武器を「やりにくさ」であることは認めている。すなわち、相手にやりにくさを感じさせる方法を、自覚的に身につけているのだ。こんなボクサーはそうそういるものではない。

 おそらく、徳山−ペニャロサ戦は、お互いにとってやりづらい顔合わせと言えるだろう。ペニャロサにとって、苦手タイプの例といえば、たった2つの黒星を両方プレゼントされたチョー仁柱をおいてないだろう。

 “アンタッチャブル”川島郭志にダウンを与えて小差ながら完勝し、その後も磐石の防衛戦を見せていたペニャロサの評価は高かった。チョーへの最初の判定負けの後でもなお「実力的にはペニャロサの方が上では? 」という声が優勢だった。しかし、再戦でも小差とはいえ判定負け。2つの試合は、韓国のボクシングファンさえ「つまらなかった」というほどのしょぼい試合内容だったが、逆に言えば、ペニャロサのブリリアントさがものの見事に殺されてしまった試合だった。

 チョーの強さ(とりわけペニャロサにとっての)は、長〜い手足をフルに生かして、きわめてロングレンジの戦いができる、ということに尽きる。ペニャロサは最高のテクニシャンで、パンチもシャープだが、基本的に中間距離もしくは接近戦のボクサーだ。チョーは、ペニャロサの戦闘可能領域の外から長槍をうまく出し入れして、ポイント勝ちした。

 そして、ウレシイことに、徳山にもそういう戦術は可能である。徳山が軽く足を使いながら得意の右ストレート(というか、なんか、よくわからないパンチなのだが、とにかく右)を叩きこむボクシングを続ければ、案外容易にペースを握れるかもしれない。ペニャロサは、フットワークにスピードのある相手を追うだけの足はないのだ。

 しかし、ペニャロサには着実で的確な足さばき、体さばきがある。きびしいフェイントもある。あの川島が、中間距離の細かい仕掛け合いで一枚上を行かれた試合は、日本リング史上もっとも技術的に高度なやり取りだった。徳山が、自分のリズムと距離を守ることができず、ペニャロサの距離に引きずり込まれるようなら、徐々にコンビネーション・ブローの餌食になることだろう。

 徳山がスズキ・カバトに敗れた試合も、きっちり自分のファイトをすれば勝てそうな内容だったが、百戦練磨のカバトの乱戦(反則だらけ)に巻きこまれ、結局負傷判定を落とした。あの頃と比べれば、徳山は各段に進歩しているはずで、ペースも守れると思うが、比国ボクサー(さらにはサウスポー。名護にはダウンを喫している……)に対する苦手意識などが少しでもあると、嫌なムードになるかもしれない。

 結果を予想するなら、徳山が立ちあがりからしっかりリズムを握れれば、大差判定勝ちの可能性が大きい。一進一退で前半を折り返すようだと、徐々に追いつめられ、終盤の小差判定負けか、ストップ負けもありうる。

 


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