●イベンダー・ホリフィールド 対 レノックス・ルイス

 (WBA&WBC&IBF世界ヘビー級王座統一戦12回戦:11月14日・ラスベガス)

ホリフィールド

37歳

37勝3敗1分 (26)

ルイス

33歳

35勝30KO1敗1分け

 

 あくまでも前回のオフィシャルの結果はドローなのだが、この再戦はホリフィールドの実質的な「雪辱戦」である。

 マスコミや多くのボクシングファンは、ルイスを実質上の統一王者として支持している。第1戦の前には賭け率で若干有利とされていたホリフィールドが、今度は5−8で不利とされていることにもそれは示されている。

 たしかに、前回の対戦時のホリフィールドには精彩がなかった。ホリィは初戦の直前には、ウィルス性の疾患により胃けいれんを起こしていたという。また、その影響で試合中には足がつってしまったらしい。

 もともと大型ボクサーが苦手といわれるホリフィールドだが、明らかにベストではなかった。 負けるときでも感動的な激闘を演じることができるのが“リアル・ディール”の真骨頂。だが、ルイス戦ではいつもの燃えるような試合ぶりが見られなかったのだ。「ホリフィールドはショット(終わった)ファイターだ」とは、過去何度か人々が口にした言葉だが、今度こそ真実となってしまうかもしれない。

「たしかに私の出来は悪かった」と、ホリフィールド本人も見とめる。「だが、前回と同じくらいのハードトレーニングをやり遂げることができたら、今度は良いファイトをしてみせる。前回はチャンスをたくさん逃してしまったが、今度は違う。

 前回、なぜあんなに打たれたかというと、足の位置を切りかえることができなかったからだ。私がルイスにパンチをヒットすることができるのは、十分に接近したときに限られる。ルイスの長いジャブをかいくぐって入りこむためには、強い足のけりが必要だ。だが、初回から足がつってしまっていて、思うように動けなかった。本来、ルイスにパンチをミスさせて、そこに入りこまなくちゃいけないのに、そういう動きにならず、打たれてしまった。今度は、接近するための策をA,B,C,Dと4通り用意して、十分に練習している」

 前回よりもグッド・コンディションを作れれば、本当にルイスの長い腕をかいくぐれるのか? たしかにそれがこのリマッチの最大の焦点になるだろう。 ながらくホリフィールドのトレーナーをつとめているドン・ターナーも、「もしホリフィールドがすでに終わったファイターなら、ルイスも同様だ」と「限界説」に反発する。「あの試合は、多くの人々が言うようにルイスの圧勝ではなかった。ドローの結果を支持しているエキスパートも少なからずいるんだ。イベンダーもがたがきているかもしれないが、半年経ったから、ルイスはもう、完全にがたがたになっているだろう。イベンダーのチャンスも出てくるわけだ」。これはもちろん、冗談めかしていっているわけだが、ホリフィールド37歳、ルイス34歳、2人合わせて71歳というのは、やはりボクシングのビッグマッチとしてはまれにみる高齢対決である。

ターナーの言うように、この半年の間にどちらかが「終わって」しまっていたとしても、けして不思議はないのだ。

 とはいえ、ルイス陣営には悲壮感はまったくない。“返り討ち”に自信満々だ。「ホリフィールドはウォリア―(戦士)なんだそうだが」、ルイスは皮肉を込めて言う、「彼はいつも、まずい試合をした言い訳ばかりしているじゃないか。いろいろ言ってるが、私にやられたというだけのことだ。ホリフィールドは、私のようなファイターと戦ったことはなかった。そして、今なおレノックス・ルイスと戦うための“答え”を見つけてはいないはずだ」

 だが、ルイスの戦いぶりも、多くのウォッチャーにとって歴史に残る「グレート」になるために十分なものではなかった。たしかに体格の優位を十分に生かしたクレバーな戦い方だったかもしれないが、後半は距離を取るだけの戦略で完全に「流した」。ヘビー級らしい名勝負を期待した観衆には、ものたりなかったのもたしかだ。

 ルイスはそんな声に反発する。「前回の私のファイトが慎重すぎたという人々がいるが、うんざりだ。試合をちゃんと見てくれれば、私がいつでもプレッシャーをかけているのがわかるはずだ。それが私のスタイルなんだ。前回のホリフィールド戦はうまくいったと思うよ。ボクシングがスイート・サイエンスであることを示したと思っている。ジャブを使って試合をコントロールし、打たせずに打った。あれこそボクシングなんだ」

 とはいえ、ルイスも前回と同じ試合をしようと思っているわけでもないらしい。「初戦のビデオを見なおして、まだ何をすることができたか、何をするべきだったかがわかったよ。今回の試合ではそれをやって見せる。

 たとえば、私が近づこうとするとホリフィールドがバッティングをしてきた。今回はそれも封じて見せる。今度はKOで勝って、ホリフィールドを引退させるよ」

 初戦が意外な凡戦に終わっただけに、ファンの熱狂は中量級のゴールデンカードほどではない。だが、酸いも甘いもわきまえたベテラン王者同士の再戦は、細部の駆け引きをふくめてボクシングの様々な要素を見せてくれそうだ。

(『ワールドボクシング』11月号より)

 


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