展望: 畑山隆則 対 ジュリアン・ロルシ

 WBA・世界ライト級タイトルマッチ12回戦:7月1日・さいたま市

畑山 隆則

25歳

24勝19KO1敗3分

ジュリアン・ロルシ

29歳

48勝35KO2敗2分

 

 なにしろ、サッカーをはじめとして、フランスのスポーツ界には今勢いがある。オリンピックなどでは如実に現われるが、スポーツ界全体の雰囲気というのは、けっこう大事だ。やっぱり、連日大衆紙などでスポーツヒーローが華々しく書きたてられていると、プロスポーツ選手なら「よし俺も」と思って当然だろう。

 今回の挑戦者ロルシは、デュランやチャベスでは無論ないし、ホーゲンやパジエンザでさえないだろうが、それでも2年前には頂点に立っていた男であり、今なお世界の一流であることは間違いない。7連勝6KOと勢いにも乗っている。これにさらに「フランス」の勢いが加われば、畑山にとってはやはり脅威になる。

 ロルシは、畑山本人が言うように「坂本(博之)選手が進化したようなボクサー」だ。「進化」とは、技術的にやや優っている、ということだろう。たしかに、ロルシは坂本と同様のパワー・ファイターだが、スピード、上体の動き、足の使い方などの点で坂本を上回っている。

 全身のパワー自体は、多少坂本の方が上かもしれない。パンチング・パワーは、坂本と同程度だろうか(以前の記事を読んでくださった方はご存知と思うが、僕は坂本をそんなに“強打者”とは思っていない)。ラクバ・シムほどの馬力はないし、畑山もシムに沈められたときのコンディションではない。たしかにロルシのKO率は高いが、連打されることがなければ、畑山が一気につぶされることもないだろう。

 両雄の持ち味からいって試合は、十中八、九、激しい打ち合いになるだろう。前回のリック戦では持ち味を出せなかった畑山だが、今度は、勝敗はともかく会場を熱狂させることはできるはずだ。

 実力伯仲、ともに圧倒的な武器があるわけでもなく、かといって致命的な穴があるわけでもないだけに、試合は細かいところで勝敗を分けることになるだろう。まず、気になるのが、畑山のコンディションだ。畑山は1年間のブランク明けにいきなり2階級制覇をやってしまうような天才的ボクサーだが、モチベーションの維持に問題がある。始終「引退」を口にしたり、厳しいトレーニングに向かう気力の萎えを嘆いたりしている。今回の試合に向け、うまく気持ちを盛り上げることができないときは、ラクバ・シム戦の悪夢の再現もありうる。

 両者ともグッド・コンディションであるなら、いよいよ距離とタイミングという、ボクシングの本質をめぐる戦いになってくるだろう。ロルシはスピードもあるし、坂本のようにあえて無茶をする必要は無い。多彩なジャブを主体に、基本的にセオリーにのっとった試合運びをするだろう。畑山の攻め方は難しい。あるレベル以上の技量を持つボクサーが、自分の分際をきっちり守るようなファイトをしたとき、畑山は意外に崩す力がないのである(リック戦、デュラン戦)

 畑山は、地道に粘り強く、各ラウンドできっちり打ち勝っていきたい。ロルシも手数が多い選手だが、畑山はこの挑戦者よりも歯を食いしばって連打を出したい。それぞれの打ち合いの場面で、わずかづつでも打ち勝っていって、結果として小差の判定勝ちを得るというのが、基本方針となるのではなかろうか。

 


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