☆3月29日・両国国技館

▽日本J・ライト級タイトルマッチ10回戦

○ 挑戦者 畑山隆則 VS ● チャンピオン コウジ有沢

 

KO9回1分44秒

 

mario's scorecard

コウジ有沢

9

9

10

9

9

9

10

9

74

畑山隆則

10

10

10

10

10

10

9

10

79

 

by mario kumekawa

 

「有沢は初回から出てくると思ってました。だから、十分にアップして、こっちも

最初から出られるようにしていました」。という本人の言葉通り、国家吹奏の間も

激しくシャドーしていた畑山が、激しいテンポで立ち上げた。コウジはもともとス

ロースターターの上、緊張もあってか動きが堅い。プレッシャーをかけることがで

きず、畑山のアグレッシブな攻撃を許す。

 

 だが、2回からコウジが放ち始めた右ボディーブローだけは、試合全般を通じて

畑山を苦しめることになる(畑山−崔龍洙戦を十分に研究した成果だろう)。「あ

の右ボディーは効きました。は〜、効きました。まだ痛いです」(試合後の畑山)。

 

 だが、ボディーに被弾する以外は、畑山のワンサイドと言っていい序盤の展開だ

った。距離をつめ、コウジの右の射程を殺し、左フック、右アッパーを決めた。

ようやくコウジのエンジンがかかり始めたのは4回。距離はあいかわらず畑山のも

のだったが、徐々に得意の右ストレートが当たりだした。

 

 中盤に入っても、依然としてヒット数は畑山が上回っていたが、打たれて強くな

いはずのコウジがぐらりともせず反撃してくる。アゴをしっかりひき、ガードも慎

重に固めているため、連打を受けることは少ない。「苦しい試合になるとは思って

ましたが、正直、もう少し簡単に倒れてくれるかと思ってたんですが」(畑山)

 

 畑山は5回からは足を使って回り始めた。「(判定でもいいっていう気持ちは)

ありました。逃げに入ってましたね。後半は有沢の方が気迫ではリードしていたと

思います」(畑山)。そんな畑山の内心を感じ取ったか、コウジは7回には右スト

レートを立て続けに決め、初めてラウンドを明白に取った。

 

 7回の劣勢で目が覚めたか、8回の畑山は再度打って出た。コウジも打ち返し、

この試合のハイライトとも言える壮絶な打ち合い。だが、やはりブローの多彩さと

スピード、フットワークに優る畑山が打ち勝った。この回後半、有沢の動きがはっ

きりと落ちる。

 

 9回、両者激しく動く中で、畑山が突然左ボディーフックを決めた。「最近ボデ

ィーブローを出してなかったんで、今回はチャンスがあれば打とうと思っていまし

た。ただし、勝負どころで打とうと……」(畑山)。これが効いた。それまでどん

なパンチを受けても耐えていたコウジの体が丸まり、続く左右連打でついにダウン。

立ち上がったもののコウジのダメージは深く、ニュートラルコーナーで連打を受け

て、ついに激闘に終止符が打たれた。

 

「畑山はうまい。様子を見ながら、考えているのがわかった」と敗れたコウジが語

った通り、畑山はつねにクールで頭脳的な試合運びで、優位に立ち続けた。後半に

攻撃的でなかったのを本人は「10代のころのような闘争心がなくなった」と冗談め

かして説明したが、崔戦で中盤まで飛ばしすぎて最後に失速したことを思えば、こ

ういったペース配分ができることは成長のしるしだろう。

 

 ただ、たしかにクール過ぎるところが気にならないでもない。世界タイトルマッ

チのレベルになると、実力は紙一重だ。常人ばなれした高いテンションの持ち主が

激戦、接戦をものにすることが多い。畑山はさっぱりした好青年ではあるが、これ

が悪いほうに出ると、ピントール、チャンドラーと2度まで世界戦で引き分けなが

ら、ついに頂点に届かなかった村田英次郎(やはり、なんとなくさっぱり、あっさ

りしたボクサーだった)の姿も思い出されてしまう。

 

 畑山にはぜひ燃えたぎる精神とともに世界にぶつかり、「宿願」の王座奪取をは

たしてもらいたいところなのだが……。