☆4月7日・ラスベガスMSGグランド IBOフェザー級タイトルマッチ12回戦
 
マルコ・アントニオ・バレラ   判定   ナジーム・ハメド

115−112,  116−111,  115−112

mario's scorecard

ナジーム・ハメド 

9

9

10

9

10

9

9

9

9

10

9

9

111

マルコ・アントニオ・バレラ 

10

10

9

10

9

10

10

10

10

9

10

10-1

116

 ハメドは何かおかしかった。グローブが合わなくて入場が遅れたのに始まり、入場時にビールをかけられ、リングに入るときにはいつものトンボが切れなかった。ひょっとして、右拳がおかしかったのかとも思って、彼の右パンチを良く見ていたが、そうではないようだった。

 一言でいえば、バレラの(意表を突く)徹底したカウンター狙いがまんまと効を奏し、ハメドはついに強打を爆発させるタイミングを見出せなかったということだ。「ハメドはカウンター・パンチャーだから」、逆にカウンター戦法を取ったということだろうが、ハメドのファイトというのは、そんな簡単な理屈で崩せるようなものだったのだろうか。

 正直言って、この試合をどう評価して良いのか、迷う。むろん、バレラはよく戦った。ハメドを相手に、あれだけ自分の思うボクシング(しかも、いつもやっているスタイルとは違うのだ)をやりきるというのは、実力と鍛錬と度胸がいることに違いない。しかし、一方で僕には、ハメドが、やれることを、やるべきことを、すべてやったとは思えないのだ。

 たしかにバレラのガードは堅かったが、ハメドの攻撃というのは、ガードを固め、カウンターを狙えば防げるようなものだったろうか? いつの間にかハメドのボクシングは、かつての精密さを失っていたと言わざるをえない。「ハメドはカウンター・パンチャーだから、今日のような戦法が有効だと思った」とバレラは試合後語っていたが、WBO王座奪取直後のハメドは、ただのカウンターパンチャーではなく、異次元的なフェイントの名手だったではないか。

 ここ2,3年の間、なるほどハメドは、あるレベル以上の相手に対してはかなり打たせ、「逆転KO」かそれに近い内容の試合で勝ち残ってきた。バレラは、少なくとも現在のハメドはそういうボクシングしかできない、と判断したのだろうか。だとすれば、なかなかにクールな観察眼ではある。

 しかし、僕はこの試合を評価するためには、両者の再戦を待ちたい。現時点での印象では、バレラがハメドを封じ込めたというよりは、ハメドが考え過ぎてドツボにはまったという感が、僕には強いのだ。ハメドは今回の試合でも、常人ばなれした反応の速さ、動きの柔軟さを見せていた。あの動きがありながら、バレラのシンプルな戦法に名をなさしめたのは、ハメドの心理的不調ではないだろうか。

 今回、最初からハメドは何かテンションが低かった。バレラがあれだけ「がっちり」と戦ったら、いかにハメドでも、悠々と堤防を突破することはできないだろう。技術的および心理的にゆさぶりをかけ、フェイントを駆使してこそ、ハメドの本領は生きるのだ。それには、フィジカルなコンディションだけでなく、ビビッドな感受性が必要なはずだ。

 もとより、ハメドの本領は破格のファイトスタイルにある。それなのに今回は、ごくまっとうな発想だけでチャンスを待っているように見えた。それなら、ただの「一発狙い」である。ハメドはもう一度、かつてのような魔的フェイントを取り戻すことができるだろうか。初の黒星をなすりつけられ、雪辱の念に燃えるだろうハメドが、次回どのようなファイトを見せるのかを注目したい。


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