●戦評: WBAミニマム級タイトルマッチ12回戦:12月6日・パシフィコ横浜国立大ホール

○挑戦者 星野敬太郎 判定 ●王者 ガンボア小泉

115−113,115−113, 117−112

mario's scorecard

ガンボア小泉

10

9

9

9

9

9

9

9

10

9

10

10

113

星野敬太郎

9

10

10

10

10

10

10

10

9

10

9

9

117

by mario kumekawa

 

 養豚が家業のガンボアを、とんかつ屋の星野が料理してしまった。

 驚いたのは、前半の星野がボディー主体にぐいぐいとガンボアを攻め上げたことだ。パンチに切れも、重さも、パワーもない星野が(失礼)強打者ガンボアのボディーを叩きに出るのは、本来相当の度胸がいるはずだが、 星野はまるで自身満々でプレッシャーをかけ、ガンボアのボディーにパンチをめり込ませた。思いきって叩きつける右も実に有効だった。

 試合後、「2回でガンボア選手の調子があまり良くないことがわかったので、楽に戦えた」という星野だが、世界初挑戦とは思えない余裕だ。やはり、31歳、一時は引退も経験した星野は、大舞台でもクールに戦うだけの成熟に達していたのだ。

 僕は、「星野は左右に動くべし」と、展望記事に書いた。さもないと、ガンボアのパンチにつかまってしまうと思ったのだ。しかし、今日の星野は、やや守りに入った終盤を除いては、ほとんど真正面からプレッシャーをかけ続けた。たとえガンボアが強打を返してきても、ほとんど首をひねるメキシコ式ディフェンスだけで威力を殺してしまった。

 星野は、やはり世界戦用に自分をバージョンアップさせていた。フックにしても、アッパーにしても、これまでよりも一層深くパンチを振り切る練習を積んでいたようだ。わずかづつだが、パンチの届く深さが確実に深くなっていた。すなわち、パンチの威力も増していたはずだ。

 ちょっと前なら、世界チャンピオンが星野のパンチでたじろくなどということは、正直言って考えにくいことだった。しかし今日はガンボアが何度かグロッギー寸前まで追いこまれた。やはり、星野は世界戦ヴァージョンの自分を作ってきていたのだ。

 インターハイ3位からプロ入りしたものの、デビュー戦は判定負け。日本王者になっても「世界」の声はなかなかかからなった星野が、ついに頂点に立った。31歳。この意義は大きい。きっちり考えながら練習を積んでいくことの成果を、星野ほど鮮明に見せてくれた人は稀だ。心から祝福の言葉を送りたい。

 それにしても、リングの向こうにずっとオーケストラが見えているボクシングというのも、優雅というかなんというか……。


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