●オスカー・デラホーヤ 対 フェリックス・トリニダード

 (WBC&IBF世界ウェルター級王座統一戦12回戦:9月19日・ラスベガス)

デラホーヤ

26歳

31勝25KO

トリニダード

26歳

35勝30KO

 

たしかに、ボクシングの歴史上でも屈指の好カードだが、両者の力量にははっきりとした差がある、と思う。トリニダードの方が上だ。パンチ力、テクニック、スピード、反射神経など、いくつかの決定的な要素において、トリニダードがはっきり優っている。デラホーヤが優っているのは、体格とビッグマッチの経験といったところか。

努力型のデラホーヤに対し、トリニダードはまさに天才だ。しかも、今なお絶頂期にある。素晴らしい精進努力、そしてスーパースターに不可欠の集中力で大勝負を勝ちぬいてきたデラホーヤだが、今回こそは非常に苦しい戦いになるだろう。

予想するなら、トリニダードの中盤KO勝ちを予想するしかない。

基本的には、デラホーヤ―クォーティ戦とほぼ似たような展開が予想される。クォーティとトリニダードはいくつかの点で共通した特徴の持ち主だからだ。ともにボクサーファイター、スピードとパンチがあり、強いジャブ(最近ちょっと減ってるが)と軽快なフットワークを持っている。攻防の勘もじつに鋭い。そして、けして打たれ強くないが、倒れても復活してくる。

クォーティとデラホーヤの差は、ほんのわずかだった。ほとんど五分、どちらかがいずれかの場面でもう少しだけ攻めることができたなら、そこで勝負を決めることが出来るような場面が何度もあった。

クォーティとトリニダードの戦力を比較するなら、現時点ではトリニダードの方が上と見るべきだろう。まず、コンディション面の条件で、トリニダードの方がいい。デラホーヤ戦の際のクォーティは、長いブランク後の試合であり、しかも最新の試合ではホセ・ルイス・ロペスに「あわや」というところまで追いつめられていた。

時期的な条件だけではない。もともとの戦力でも、いくつかの点でトリニダードはクォーティよりも上だ。まずは、なんといってもパンチ力。クォーティは、体全体にパワーがあるが、パンチの決定力自体は目を見張るほどのものではない。それに対し、トリニダードはどんなタフな相手でも、人間である以上一発でしとめるだけの固く強いパンチを持っている。

また、ディフェンスの勘もクォーティより良い。自身過剰な面があるため、序盤にうっかり強打を食って倒れることもあるが、致命傷に至ったことがないのは、そういう場面でもある程度パンチが見えている、ということだ。

さて、試合を「大胆予想」してみよう。

最近、なかなかのスターターになってきたデラホーヤは、前半、エンジンのかかる前のトリニダードを圧倒するだろう。天才型なだけに、トリニダードのボクシングには時々大きなスキが生じる。そこを、デラホーヤの類まれな勝負勘とスピードが襲う。おそらく2回か3回に左ショートフックがカウンターで決まり、トリニダードからダウンを奪うだろう。

このダウンのダメージは、過去にトリニダードが何度か喫したダウンのそれよりも、はるかに大きいはずだ。足元の定まらないトリニダードをデラホーヤは追いまくる。

だが、デラホーヤの集中打、あるいはコンビネーションは、勢いとスピードこそあるが、パワーと正確さには欠ける。ひとたび危険を意識したトリニダードをデラホーヤがとらえることはできまい。

むしろ、この攻勢がデラホーヤの落とし穴になる。5回、トリニダードのモーションのない右ストレートがデラホーヤの顔面を打ちぬく。ひざがかくっと折れるデラホーヤだが、気合が入っているのと、これまで優勢だった勢いとで、ダウンはしない。ロープに片手をかけるようにして耐えるデラホーヤに、トリニダードのワン・ツー・スリー! 女性ファンの悲鳴が上がる。

この回を耐えたデラホーヤだが、むしろダウンしておけば良かった。立っていたがために、トリニダードのパンチを2発ほど余計に被弾し、これが致命傷となる。世界的強豪相手でも、1発で試合を終わらせることができるのがトリニダードだ。そのパンチを2,3発余計に食うということは、深刻な意味がある。

クォーティ戦の最終回後半ほどではないにせよ、動きがほとんど止まったデラホーヤを、トリニダードもつめることができない。トリニダードも効いているのだ。もう一発クリーンヒットを受けたら、立っていたれる保証はない。慎重にリズムを取りながら、ジャブだけを強く打ち出し続ける。

6回、7回と過ぎても、デラホーヤは回復しない。「来るならやるぞ」という殺気だけ発しながらトリニダードを遠ざけているが、パンチは遅く、力がない。

完全に立ち直ったわけでないトリニダードも、すでに気力だけで戦っているデラホーヤに留めを差しにいく決意が出来ない。自分も、一発食ったら終わりそうだからだ。しかし、強いジャブがデラホーヤの顔をびし、びしととらえるたびに、ゴールデンボーイのダメージは限界へと近づいていく。

8回2分56秒、左目の上と下を腫らしたトリニダードがコーナーでデラホーヤに1発、2発、3発と強打を見舞い、ついにレフェリーが割って入る……。

デラホーヤにとって痛いのは、アウトボックスして勝つ可能性があるとは思えない点だ(シュガー・レイ・レナードのアウトボクシング能力は、彼に奇跡の勝利をもたらした)。デラホーヤは、結局、接近戦でのスピードと手数で打ち勝つしかない選手だ。ロングレンジからの攻撃的なジャブで勝った試合(たとえば対チャベス第1戦)もあったが、それは相手がスピードではっきり劣る場合に限られる。

アウトボックスできないデラホーヤは、クロスレンジでの打ち合いにかけるしかない。早いラウンドなら、左フックを先に当てるチャンスはあるだろうが、トリニダードのエンジンがかかったら、ワンパンチの威力の差が大きく大きくのしかかってくるはずだ。

 


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