●戦評: WBC世界S・ウェルター級タイトルマッチ12回戦:6月23日・ラスベガス

○挑戦者 オスカー・デラホーヤ 判定 ●王者 ハビエル・カスティジェホ

119−108 × 3

mario's scorecard

カスティジェホ 

9

9

9

9

9

9

9

9

9

10

9

8

108

デラホーヤ 

10

10

10

10

10

10

10

10

10

9

10

10

119

by mario kumekawa

 

  やっぱり、強いな、デラホーヤは。なんだかんだいって、弱い世界王者とはけっして言えないカスティジェホを完封だ。つねにプレッシャーをかけ続けるスタイルで、S・ウェルター級王者を圧倒してしまった。アームストロングの、あるいはアルゲリョの昔とは条件がいろいろ違うといっても、とにかく5階級目の「世界王座」を手にしたことはたしかだ。しかもまるで危なげなく。

 戦術も、いかにも「強い! 」とうならせるものだった。左ガードを下げ、左フックやフリッカージャブの威圧感で相手を押し込めながら、接近したら連打を放つ。カスティジェホはシャープな右を持っているが、それをデラホーヤの防御の空いた左アゴに打ちこむことはついにできなかった。

 ひょっとしたら、イスマエル・サラスは、畑山戦の坂本にこういうファイトをさせたかったのかもしれない。しかし、坂本がスピード不足を補うために左ガードを下げる「冒険」に出たのに対し、デラホーヤはむしろハンドスピードのアドバンテージを最大限に生かすためにこのスタイルをとったのだ。前提が正反対である。やはりこのスタイルは、スピードと勘で明らかに優位に立っている者のみに許される「大胆な」戦法と言わねばなるまい。

 しかし、多くのウォッチャーが、このデラホーヤの快勝にさえ一抹の疑問を投げかけるだろう。「これで、トリニダードに勝てるのか? 」と。

 たしかに、デラホーヤはトリニダードに対し、スピードの点では優っているように見える。だが、その「スピード」は本来のそれ、すなわちハンドスピード、フットワークのスピードではない。デラホーヤはトリニダードを上回っている「速さ」とは、連打の回転の「速さ」、そしてフットワークの「多彩さ」だ。純然たるパンチのスピードなら、トリニダードも相当に速い。実際、ほぼ同時にパンチを出そうとした際、トリニダードが先を制されたことがかつてあっただろうか? もともと速い上にコンパクトなトリニダードのパンチは、デラホーヤのコンビネーションよりも先に致命打となって爆発する可能性は大きいのだ。

 トリニダードの欠点は、リズムに乗りきれないと手数が出せない点、多彩な動きでアウトボックスされると、たとえ痛んだ相手でもしとめきれない点だ(カマチョ、ウィテカー、デラホーヤ戦)。逆に、相手が向かってくるなら、バルガスだろうが、リードだろうが、ジョッピーだろうが、最終的には粉砕してしまうのである。デラホーヤは、そのオールラウンド・プレーヤーとしての才能を活かして、うまく「ごまかす」ボクシングをするべきだと思う。

 デラホーヤが、トリニダードとの再戦で、もしも今回のスタイル(左ガードを下げて前進)で戦うなら、本当に畑山戦の坂本のようになるのではないか。トリニダードの右の決定力は畑山以上だから、もっと「ずばっ」とやられるかもしれない。それは、「男らしい」戦いとして、緒戦よりもメキシコ人たちに愛してもらえるかもしれないが、やはり勝てない気がする。

「5階級制覇」の問題については、僕も参加しているPCVANボクシング・フリークスの「BoxingBBS」で面白い意見が交わされたので、そちらを参照して下さい。
http://sig.biglobe.ne.jp/BOXING/


トップページに