真部は「第二の飯田」だ!

 

by mario kumekawa

 

 最近の真部豊の充実ぶりには、実のところ心底驚いている。俊英北島 桃太郎にも、地力の差を見せつけてのKO勝ちだ。

「史上最強の証券マン」が長年のキャッチフレーズだった彼だが、その 証券会社を退社し、ボクシングに専念するようになってからは一段と 底力がついてきた感じだ。

 だが、現在のトップボクサーの中でデビュー当時、真部ほど才能を感 じさせないボクサーはいなかった。これは、必ずしも僕の目が節穴だっ たからだけだとは思えない(無論それもあるだろうが)。  体は固い、スピードもそれほどない、パンチは多少重いが切れない、 打たれ弱い上に回復力もない(そのくせ、相手の真正面に顔を突き出し たまま打ち合いをする)、センスもない……。失礼を承知でごく正直に 言えば、僕の真部に対する印象はそんなところだった。

 そんな真部がそれほど悪くない戦績を積み上げることができたの は、ひとえに粘り強い性格によるものと思えた。だが、リングには猛者 がうなるほどいるのだ。この才乏しく、特に若くもないボクサーがベル トを腰に巻く日が来るとはほぼ全く予想していなかった。

 4年前、植田憲治らに手ひどいKO負けを続けたときは、その真部の 粘り強さが彼自身の身体を損なっているように見えた。正直言って「これで終わり」、「引退したほうがいい」と思った。

 だが、真部はじわじわと地力を高め、日本の頂点にまで立った。「ぽきぽき」音を立てそうだった細い体は、アレクシス・アルゲリョばりにビルドアップされた。以前は相手の直撃弾を食った顔面も、今ではパンチを出すたびごとに慎重に位置を変えている。パンチの威力も精度も格段に増してきた。

 今や真部は「世界」への入り口に立った、と思う。かつて飯田覚士が日本王者(世界じゃなくて)になった時、僕は「あの飯田が……」と驚いた。あの時の飯田のレベルには真部は達していると見る。

 宮田ジムサイドは、「強敵ばかりでは気の毒」と、東のホープ福島学との対戦を延ばそうとしている雰囲気がある。だが、真部は今が「伸び時」だ。「強敵」を回避しては、若くない彼が「第2の飯田」になるチャンスを逸してしまうのではないか。(99年6月)


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