好カードを実現し続けるために

 

by mario kumekawa

 

注目の一戦は、名勝負の末、名護明彦が山口圭司を辛くもしのいだ。この結果は、たしかに名護にとっては世界への大きなステップになったはずだし、王座復帰を狙う山口にとっては痛恨の黒星とは言えるだろう。だが、それよりなにより、この対戦が実現したこと自体を快挙としてまず讃えたい。

ともに上昇期にある特上の才能2人が対戦したということは、日本リング史上ではきわめてまれな出来事だ。両者ともに、このようなリスクをおかさずとも近い将来の世界チャレンジはほぼ約束されていた。しかも、王座奪取の可能性も、けして低くはないのである。それでも2人の激突を可能にしたのは、「強敵に勝ってこそ華」という極めて健全な発想と、加えて両選手の自信とプライドの高さだろう。

先に「挑戦」を切り出した山口は、一度手にした栄光を取り戻す以上の何かを欲したのだ。たしかに、昇竜・名護の進軍をストップした上での王座返り咲きは、彼に格別の名声をもたらしたはずだ。そんな山口の、名誉に対する飢餓感をボクシング・ファンは大切に受け止めなくてはならないだろう。

日本がボクシングの「後進国」の観があるのは、選手層が薄いからではない。世界タイトルにあまりにも依存した旧態依然たる業界が、若き強豪同士の対戦を避けていることこそ、リングの魅力とレベルを落としているのだ。中南米、とりわけメキシコでは、国内ホープ同士のひんぱんな対戦が同国ボクシングの高いレベルと人気を支えている(その意味では、名護−山口戦という超注目カードがほとんどの地域で即日放映されなかったことは、あまりの痛恨事と言わざるをえない……)。

好カードを実現させるには、観戦側の意識の成熟も必要だろう。実力者同士が対戦した場合、その日の勝者がかならずしも最終的な栄光をつかむとは限らないのだ。 小林光二は新人王戦では渡辺二郎に倒されたが、のちに世界王座をつかんだ。ピューマ渡久地への敗戦がなければ、川島郭志はもっと早く頂点に行っていただろうか? 好カード、好試合の良き敗者には相応の評価とチャンスが与えられなくてはなるまい。山口を単なる敗者にしてはならない。(98年12月)


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