ジャーマンな世界戦演出

 

by mario kumekawa

 

 7月から9月末までドイツに滞在することになり、さっそく7月17日デュッセルドルフで挙行されたファン・カルロス・ゴメス対ブルース・スコットのWBCクルーザー級戦の取材に出かけた。

 ドイツのスポーツと言えばサッカーだが、ボクシングの人気も地味ながら捨てたものではない。

 試合の数日前、居酒屋で「僕は日本のボクシング記者だ」と自己紹介しても、誰も関心を示してくれなかったが、当日会場に行くと、武道館規模の「フィリップ・ホール」がほぼ満員になっていた。

 じつは、僕はドイツで世界戦を見るのは初めてなのだが、「お国変われば」で、いろいろカルチャーショックを覚えた。まず、会場近辺はもちろん市内いたるところにたくさん張ってあったポスターだ。王者ゴメス、セミでWBAインター・ヘビー級戦を戦うウラジミール・クリチコ、さらに女性ボクサー、デイジー“レディ”ラングの名前と顔写真はでかでかと出ているのだが、彼らがそれぞれ誰と戦うのかはどこにも書いてない。「地元出身のロックバンド登場! 」とか「レーザー光線、花火もあるよ」とか、どうでもいいことは書いてあるのに、世界戦のチャレンジャーの名がないのだ。

 かわいそうな挑戦者スコット……、と思ったら、会場で5マルク(300円ちょっと)で売っているパンフレットには、スコットはもちろん、前座に登場する選手のプロフィールやインタビューがじつに詳しく載っている。しかもオールカラーで、これはいける。

 演出ももりだくさんで楽しめた。予告通り、レーザーと花火がこれでもか、と光を放ち、前座のロックバンドは4曲も歌った。他にも、クリチコをティナ・ターナーのそっくりさんが、ゴメスを4人の女性サルサ・ダンサーがリングで出迎えるなど、派手派手だ。

 余興のきわめつけは、休憩時間に行なわれた、WBOヘビー級新王者ヴィタリ・クリチコ対卓球の世界チャンピオン(名前は聞き取れなかった)の「最強王者決定戦」だ。勝負は卓球。会場の隅っこに置かれた卓球台で行なわれ、よく見えなかったが、やっぱりクリチコは負けたらしい。2メートルを越す大男には、ピンポン玉は小さすぎたようだ。(99年8月)


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