●崔龍洙 対 畑山隆則

 (WBA世界S・フェザー級タイトルマッチ:9月5日)

崔龍洙

26歳

24勝14KO2敗1分

畑山隆則

23歳

21勝17KO1分

 

切り札登場である。前回の対戦では分の良いドロー、しかも、畑山は再起戦で日の出の勢いだった日本王者コウジ有沢をノックアウトして活きのよさを取り戻している。これで期待するなという方が無理だ。 僕の予想でも、世界奪取の可能性十分と見たい。

前回の対戦が最大の予想材料であることは言うまでもない。あの試合では、畑山が得意の斜め前方への踏み込みで左右フックやアッパーを叩き込むいつものボクシングができるかどうかが注目された。俊英畑山といえど、プロ中のプロ崔の圧力を初体験したなら、リズムを保つことは難しいのではないか、という懸念があったのだ。しかし、畑山は見事にやってのけた。自在にステップを踏み、強烈なブローを崔のガードの内から外から鮮やかに打ち込んで見せたのである。

もうひとつの懸念もあった。驚異のスロースターター崔の、今や伝説的とさえ言える後半の追い上げに、畑山が対応し切れるかという心配だ。
この懸念は、半ば現実となり、半ば杞憂だった。たしかに、崔は予想以上の底力を発揮し、畑山は終盤のラウンドにポイントの貯金を吐き出して、試合は痛恨のドローという結果に終わった。

しかし、僕はこの試合展開に畑山の素晴らしいポテンシャルを見たい。忘れてはならないのは、畑山は2回ですでに左目上に深刻な傷を負っていたということだ。世界初挑戦、しかも崔のような地獄のタフファイターを相手にして、あんな傷を負うということはあまりにも重いハンディである。精神力やタフネスがないボクサーなら、中盤ですでにメロメロになり、10回前後でストップされたに違いない。

しかし、畑山は涼しい顔で戦いを続け、10回についに疲れを見せるまではまったく体力負けする要素はうかがえなかった。試合後も、目の傷のハンディをまったく語ろうとはしなかった。畑山は精神的にタフだ。スタミナも崔に対抗しうるくらいある。
ボクシングで「もし」は禁句だが、畑山がカットしていなかったら、楽勝でタイトルを奪取していたと思えてならない。すでに一度苦しい戦いを経験し、挫折感からも立ち直った畑山には、もはやほとんど死角がないようにさえ思える。成熟した畑山は、今度は同じような傷を負おうとも、よりたくましく戦い抜いてくれるような気さえする。

今回の試合、両者の戦術はそれほど変わりはないだろう。崔は前進しながらタイミングよく右の長距離砲を打ち込むだろう。畑山は激しく動いて、多彩なフック、アッパーを放ち続けるだろう。

前半、6回までに畑山が2ポイントほどのリードを奪うことは困難ではないと思う。問題はやはり後半だが、怪我などのアクシデントがない限り、互角以下には(多少崔がペースを上げるとしても)ならないのではないか。 崔に歴戦の疲れが見えるようなら、畑山のKO勝ちもありうる。

畑山に心配があるとすれば、崔の右ボディーブローにどれだけ耐えられるかだ。コウジ有沢も、しきりと畑山の左脇腹を右ストレートで叩いて苦しめていたが、畑山はこのパンチをバックステップやエルボーブロックで封じることはそれほどできないのだ。

ある程度、畑山は左脇腹に崔の右を食うことを覚悟せねばなるまい。もしなんらかの理由で体調が万全でないようだと、足が止まってしまい、崔の猛攻を浴びることになりかねない。

これは畑山にとっては勝てる試合だ。あと1週間、コンディションをベストに近づけることさえできれば、いよいよ畑山が日本のエースの時代が幕をあけることになるだろう。

 


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