[戦評]▽WBA世界ミニマム級タイトルマッチ12回戦
 
☆8月25日・パシフィコ横浜

               挑戦者 新井田 豊 判定 王者 チャナ・ポーパオイン
 
116-115
116-113
116-113

mario's scorecard

チャナ        

9
9

10
10

10

10

9

10

9

9

10
10
116

新井田 

10

10

9

9

9

9

10

9

10

10

9

9

113
 
 
mario kumekawa

 僕の採点では、3ポイント、チャナの勝ちだったが、微妙なラウンドが多かったから、逆の判定が出てもまあおかしいとは言えまい。しかもユナニマス・デシジョンだ。3ヵ月前の日本タイトルマッチで勝てなかった選手が、世界タイトルを奪取したのだ。新井田はよくやった。

 ただ、試合内容はやはり世界戦としてはいささか淋しいものだった。

  やはり、チャナはとらえがたい標的で、シャープな新井田のパンチでも的中率はいつもの4分の1くらいだったろう。パンチが当たらないことに慣れていないせいなのか、新井田はリズムに乗り切れることができなかった。「後半勝負」の作戦を立てていたのだが、チャナが疲れの色を見せはじめても、決定的な攻勢は取れず。得意のはずの左フックの交換で打ち負けるシーンさえあった。手数がどんどん少なくなったのも、世界レベルのディフェンスに対峙した経験がなかったせいだろう。

 新井田持ち前のパンチのシャープさや、タイミングの良さは最後まで変わらなかったが、力量的にまだ未熟な点もさらされた試合だった。少なくとも、期待されたような、「天才」ぶりが輝くような試合ではなかったこともたしかだ。

 やはり、チャナのしぶとさは新井田には相当の負担になったようだ。立ちあがりこそおとなしかったが、3回あたりからはよく動き、なんともさばきにくいブローを叩きつけてきた。スピードでもパンチの切れでも上回っている新井田は正面から打ち合っても打ち負けないはずだったが、これがキャリアというものか、新井田はしばしば後退を余儀なくされた。反撃の手数もなかなか出せなかった。

 「お客が沸いてないのは分かったが、無理に出てはいけないと思っていた」という新井田を、関会長は「じつに頭脳的な戦いぶりだった」と絶賛した。しかし、相手が今のチャナだから良かったのであって、チャナがもう少し元気な時だったら、今日の試合の手数ではおそらく判定負けしていただろう。そうなれば、西岡利晃や名護明彦と同じように、「ふがいない」という声が浴びせられたのではないだろうか。

 しかし、誰に挑戦するかというのは、ほんとに運だ。そして、「運」は「実力」の重要な一部分である。西岡や名護にも「天才」の呼び声がかかったが、彼らは今だに世界チャンピオンには手が届かずにいる。しかし、飯田大介にマットに叩きつけられた新井田は、その3ヶ月後頂点に立った。

 この運を大事にしてもらいたいものだ。鬼塚勝也や薬師寺保栄も、世界王座を奪取した試合はあまり評価されず、「ホームタウンデシジョン」の声も聞かれたが、防衛を重ねるうちに名ボクサーに成長していった。新井田の若さ、才能には、これからさらに成長を続けることが十分に可能なはずだ。今後に期待したい。


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