●コウジ有沢 対 畑山隆則

 (日本J・ライト級タイトルマッチ10回戦:3月29日)

コウジ有沢

26歳

18勝15KO無敗

畑山隆則

22歳

20勝16KO1分

 

 

 

 まず、この黄金カードを実現した両陣営に称賛と感謝を申し上げたい。「好カー

ドこそ日本リング活性化の鍵」と言われて久しいが、実際には世界を狙うホープ

同士の対決など、ほとんど実現したことはなかった。まして、無敗同士のホープ

対決は史上初めてだろう。両雄ともに、このようなリスクを冒さずとも、待って

いれば世界戦はおそらくやれただろう。あえて対戦する心意気には頭がさがる。

 

 とりわけ、有沢を讃えたい。僕も、大方の予想と同じように、畑山に分がある

と考える。有沢本人もそう思っているようだ。それだけに、ここでの決戦を選ん

だ勝負師魂はじつに貴重だ。無敗の日本チャンピオンでありながら、無冠の畑山

にこのようなチャレンジング・スピリットを抱いてぶつかってゆける精神は崇高

でさえある。

 

 両者の戦力は、畑山のほうが一枚どころか二枚は上だろう。スピード、リズム、

フットワーク、攻撃のバリエーション、タフネス、スタミナ、そして世界王者・

崔龍洙と引き分けた一戦を含むキャリアの差も大きい。有沢が優っている(かも

しれない)のは、やはりパンチ力、とりわけ右ストレートの決定力ぐらいという

ことになろう。

 畑山が世界戦と同じ程度のコンディションで仕上げてくると、試合は一方的に

なるかもしれない。有沢よりも速いテンポのリズムを保ち、サイドステップして

はショートフック、左右アッパーを決め、早い回で倒してしまう可能性もある。

 

 だが、僕は、畑山がベストで来る可能性は小さいと見ている。理由は、畑山が

崔戦で感じたらしい意外に大きな敗北感だ。崔との戦いがドローに終わった両国

の控室に、畑山は「ああ、負けた! ちくしょう! 」と小さく叫びながら戻っ

てきた。その声を聞いた人々は、「挑戦者にとっての引き分け=負け」という意

味だと理解したはずだ。

 しかし実は、畑山はむしろ普通の試合の敗者以上に敗北感を抱いていた。自分

の力の足りなさを痛感し、非常に落ち込み「引退も考えた」というのだ。実際、

あの試合以来、畑山は元気がない。まだ「敗戦のショック」から立ち直っていな

いようだ。本人も「コウジさんみたいな強敵のほうが、崔戦をひきずらなくてす

むからいい」と発言している。いや、強敵・有沢を迎えてなお、崔戦をひきずっ

ているように見える。発散する雰囲気に勢いが感じられないのだ。

 

 ボクサーはたった1試合で、何か(たとえば「勢い」)を決定的に失うことが

ある。畑山がそうでないことを望みたい。畑山になんらかの迷いや、気弱な思い

があるようだと、試合はわからなくなる。有沢は多くの点で戦力的に劣るが、ディ

タミネーション(戦闘的決意)の固まりだ。一瞬の迷いを突いて、有沢の打ちお

ろしの右が畑山を吹っ飛ばすシーンも想像できる。

 

 有沢としては、ジャブを有効に使う必要があるだろう。畑山のジャブの方が速

くてリズムもあるが、有沢のジャブには力強さがある。最近やや影をひそめてい

る観があるが、昨年八月の福永戦の序盤で見せたジャブには威圧感があった。あ

れだけの迫力のあるジャブを放ち続けることができれば、畑山のスピードとリズ

ムをかなりの程度殺し、サイドステップからの攻撃を封じることができるだろう。

 

 逆転KOの多い有沢だが、逆転に成功したのはあくまでも格下が相手だったか

らだ。畑山に先手を取らせたら、ワンパンチでのペース奪回は難しい。立上りは

なんとしてもプレッシャーをかけ、ジャブの威圧感で少しでも畑山の動きを束縛

しなくてはならない。

 そういう意味でも、初回がきわめて重要だ。開始ゴングがなった時、有沢のプ

レッシャーがリング上を制すれば好ファイトになろう。畑山が崔に対したときと

同じように、サイドに踏み込みながらのフック、アッパーを自在に放つことがで

きるようだと、畑山のワンサイド・マッチになる。