●15ラウンズの追憶
 実をいうと、僕はいまだに「真の強者を決めるのは15ラウンズ制だ」と感じてい るひとりである。 世界タイトルマッチを15ラウンドに戻せ、とまで言いたいわけ ではかならずしもない。やはり、15回戦はあまりにも苛酷だ。80年代初頭に、WB Cスレイマン会長らが率先者となって、「ボクサーの生命を守るために、あまりに 苛酷な15回戦の最後の3ラウンドを廃止する」という方向へと世界のリングをひっ ぱっていった。それはそれで、正当な理由があった。  15回戦を12回戦にしたからといって、どれほどの事故が防げているのかは実のと ころ定かではないにしろ、13回以降がないことで、ボクシングの苛酷さはある面で はたしかに軽減されたと思うのだ。  逆に言えば、それほど「13ラウンド以降」というのは、ボクシングの恐ろしさ、 深さというものを感じさせる世界だった。  歴史上のグレートファイトを思い出してほしい。ロビンソン−ラモッタm(13回 TKO)、マキシム−ロビンソン(14回TKO)、マルシアノ−ウォルコットh(13 回KO)、アルゲリョ−オリバレス(13回KO)、アリ−フレージャーj(14回T KO)、レナード−ベニテス(15回KO)、レナード−ハーンズh(TKO14回) 、プライアー−アルゲリョ(14回TKO)国内では、ペレス−矢尾板i(13回KO )、オリバレス−金沢i(14回KO)、柴田−ボラニョス(KO15回)、アルバラ ード−輪島h(15回KO)、輪島−柳i(15回KO)、具志堅−リオスi(13回T KO)……。13回を越えて、地獄の底から取ってきたような炎のパワーで強敵を突 き放した、ものすごいボクサーたちの姿がそこにはある。  ボクシングに“IF”はないが、もし、右の試合が12回までで終わっていたとし たら? それほど12回と15回は違うのである。あるいは、ハグラー−レナード、レ ナード−ハーンズi、チャベス−テーラーh、さらには薬師寺−辰吉が15回戦だっ たとしたら……。  もし、ボクシングの歴史をある程度正当にながめようと思ったら、15回戦と12回 戦ははっきり区別しなければなるまい。ボクサーの消耗度も違うはずで、王者の防 衛記録の重みなども違ってくるだろう。