<夜と月と一人の部屋>

徒然なるままに書き下ろす、詩の部屋です。

戯言帳にもどる


石の檻に閉じこもる
心に闇を抱えながら

外気に触れる肌も肉も
次第に冷めていくのを感じながら

血潮も魂も熱を失っていく
光も影も色を失っていく

何も感じない
何も思わない

何も信じない


薄れていく
霞んでいく
有にして無の人型

人型の無


カラカラ……カラカラ……虚ろに響く……
それは……遠い日の記憶……

サラサラ……サラサラ……流れて消える……
それは……遠い日の記憶


雪に抱かれ
心まで醒めていく
薄闇に包まれ
心まで碧くそまっていく

いっそ氷の塑像となって
融けゆく日まで立ちつくすのもいいか


北の冷気が 天球まで凍りつかせた夜
星は瞬かず ただ輝き続ける
粉々にうち砕かれた 玻璃のように

彼の地では 星は輝いていますか
彼の地では 星は瞬いていますか

密やかな音を立てて 星の光が降ってくる夜
雪も眠らず 此の地を抱き続ける
幾星霜の彼方の 星の渦のように

彼の地では 雪は輝いていますか
彼の地では 雪は瞬いていますか


怪物になりたい
それは子どもの夢
でも、私は、怪物になりたい
血と悲鳴と恐怖に酔いしれる
怪物になりたい

夜の闇を
深い森を
都会の銀幕の陰を
走り抜け、すり抜け
錆色のナイフと共に
貴女の後ろに物言わず佇む
怪物になりたい

貴女の血を
肉を
痛みに溢れる涙を
恐怖に溢れる叫びを
啜り尽くし
貪り尽くす
怪物になりたい

そして
貴女の傍らに
……


ずっと前から、分かってたんだ
私が、終わりを期待していたことに

世紀末の予言も
私の密やかな期待を満たしてくれなかったけれど

でも
今でも待っているんだ

終わりが来ることを


もの悲しいかな、秋よ
厳しい寒さではなく
心の奥底を冷ましていく密やかな冷気よ

私の隣の
慎ましやかな、小さな灯火も
消えてしまったよ

もう温もりも
伝わらなくなってしまったね


思い通りにならない自分に腹を立て

思い通りにならない心に嫌気がさす

たった一人きりの自分なのに

なぜ否定したくなるのか

たった一人きりの自分なのに

なぜ思い通りにならないのか


厚いヴェールを垂らすように

空から落ちてくる無数の薄片

闇を透かすように

光を覆うように

白く

白く


剣と魔法の世界に憧れて

電脳の世界に遊ぶ

電脳の中の魔法世界

電脳こそ現代の魔法かもしれない


見上げる星空に

吸い込まれてしまいたい

現身のままあの高みに昇れたら

きっとこの心も

蒼く蒼く染まれそうな気がする


真冬の恋を歌う女(ひと)のCDを買った

幾つかの冬を彩った歌声を聞いていると

今年の冬は何かいいことがありそうな気がした

可笑しいね

真冬の恋なんて したこともないのに


あたたかい雪は好きじゃないんだ

重くて 湿っていて ベタついて

 

身体の芯から凍り付くような夜に降る

上質の砂糖のような粉雪が好きだな

踏みつけるとキュッキュッと音のするような

あの感じがとてもいい


寒さに軋む扉を押し開け

冷たく暗い部屋に辿り着く

 

灯りを点すのも早々に

ストーブに火を入れ

椅子に腰掛ける

 

タバコをくわえ

硝子の円柱の中の 紅い華が育つのを見守る

 

華が 唸りを上げる小さな炎になったとき

チリチリと囁いていた口元の灯りは消え

部屋にはささやかなぬくもりがひろがる

 

一人きりの部屋

語る者はいない


天駆ける星の夜が終わり

昼と夜が交差した

33年後の天駆ける星の夜

99年後の天駆ける星の夜

昼と夜は交差し

そして永劫の星の夜


死はいつかやってくる

生は義務なのか 責任なのか

死は義務なのか 責任なのか

生とは何か 死とは何か

そして 今ここにいる私は何か

胸の内の神は何も答えてくれない


我が心は鏡

炎を見れば火を映し

湖面を見れば水を映す

空を仰げば雲を映し

地を見下ろせば石を映す

 

我が心は鏡

己を映すと欲すれば

輪郭のみの合わせ鏡

正対すれば無限に深く

永久に続く四角い闇


ON

ONのままでいたくない

じりじりと壊れていく恐怖……

OFF

スイッチを切るように

OFFになってしまいたい

完全に壊れてしまう前に……


水平を保つだけで精一杯

さざ波を抑える事すらできない

ずっと見つめ続けなければ

ただ流れ落ちてしまう心

いっそ冷え切って

凍り付いてしまえばいいのに

いっそ白熱して

焼き切れてしまえばいいのに


粉々に砕け散った

破片を繋ぎ合わせても

元の玻璃像には戻らない

人の心もまた……


陽光に晒され

干涸らびた心は

水を求め

夜を彷徨う

 

硬く強張り

ひび割れた心は

かけらを求め

異郷を流離う

 

草臥れ果て

すり減った心は

再生を願い

闇に抱かれる


戻れなくなったのは誰のせい?

還りたいと 心底願って

結局 失ってしまったあの日

逢いたいと 祈るように電話をし

結局 失ってしまったあの人

失ってしまったのは僕のせい……


夏は既に遠い日になり

短い秋は駆け足で去っていく

夕日が連れ去るのは

暖かい陽の光の想い出

夜の冷気が伝えるのは

白く長い冬の訪れと

白い夜の想い出


闇の歌は誰にも聴かせてはならない

呪詛の言葉は口に出してはならない

羨望は顔に出してはならない

嫉妬は態度にしてはならない

そしてこの想いも


信じてはならない

信じてはならない

信じてはならない

信じてはならない

信じてはならない

信じてはならない


誰にでも

心の温かくなるような想い出が

遠い昔に

ほろ苦く感じる想い出が

ふと感じる

くすぐったいような甘い想い出が

そして

想い出は刻一刻と色褪せて

すべて死の蒼に染まる


雲一つない青空の下

車を走らせていると

“消えてしまいたい”

と、心が呟いた

 

一人きりの部屋の中

音楽を聴いていると

「消えてしまえ」

と、もう一人の自分が告げた


僕は機械じゃない

涙を流すことは忘れたけれど

僕は機械じゃない

怒りに震えることは無くなったけれど

僕は機械じゃない

笑顔の喜びは思い出せないけれど

僕は機械じゃない

人のぬくもりに触れていないけれど

僕は機械じゃない

心のしなやかさは失われたけれど

僕は機械じゃない

幸せな夢は消えてしまったけれど

ボクハキカイジャナイ

ボクハ…………


月が欲しい

白々と輝く月が

どうしようもなく落ち込んだ夜

見上げて彼のひとを思い浮かべるために


何故、皆、他に求めたがる

何故、皆、他を避けたがる

何故、皆、他を責めたがる

他に望むくらいなら、自らの力で成せばいい

望みが叶わぬなら、いっそ己が身を喰い尽くしてしまえ