目次
英語って難しい(2003年3月9日記載)
分子生物学実験について(2003年3月14日記載)
アメリカ人て脂肪が嫌い(2003年3月28日記載)
イラク戦争について(2003年4月11日記載
英語って難しい
 
 アメリカに留学して暮らしていく以上、日常は英語(米語)を使っていかなければなりません(あたり前)。

 管理人も中学、高校、大学と日本での一般的な英語教育は受けてきました。なので、英語の読み書きにはほとんど苦労しません。しかし、会話となると話は別です。言語はもともと音声なので(まず音声があり、文字は後から発明された)、通常は話せても読み書きできないという状態(俗に言う文盲ですね)はあり得るんですが、管理人の場合(と言うか大部分の日本人)は全く逆の状態なわけです。

 比較的難解な論文などを辞書なしで読めるわりに、発する言葉は3歳児程度というのが現状でしょう。コミュニケーションの道具としては全く役にたっていません。

 自分で解析してみると、管理人の場合基本動詞の運用力に問題があるようです(もちろんそれだけではないですが)。例えば実験の最中に”チューブの中に酵素を入れる”ということを英語で言おうとしたとき、"tube"、"enzyme"という言葉は出てくるんですが”入れる”が出てきません。口ごもっていると相手が慮ってくれて"Yes, put it."といってくれました。このことで今まで"put"を”置く”と認識していた誤り(と言うか、英語の基本動詞が状況を表すものであること)を再認識したのでした。

 話すのと同時にできないのが、聞き取りです。ラボでは、こちらが英語が不自由なのが分かっていますから、比較的聞き取りやすい英語をボスも含めて話してくれるんですが、テレビの音声はほとんどと言っていいほど聞き取ることができません。不思議なのは、ラジオは比較的聞き取れるんですね、これが。映像がない分だけ音声に集中できるからかなとも思いますが(と思って映像を見ないでテレビの音声を聞いてみましたが、やっぱりダメ)。

 面白いのは、管理人(日本人)からみてひどい発音だなと思う(ごめんなさい、人種差別じゃないんです)インド系の研究者の英語は問題なく受け入れられているんですが、これも管理人から見て流暢な英語を話す日本人研究者の、英語での講演のあとのラボの同僚の評価は、”フランス語訛りが強すぎて、ついていくのが大変だった”とのこと。”フランス語訛り?”と思いましたが、フランス語を母国語とするアルジェリアからの留学生も”フランス語の発音ぽかった”と言っていましたからそうなんでしょう。

 こうなると、通じる英語を話すというのがどこに目標を置いたらいいのか(別に発音がきれいでなくても、通じることに重きを置けばいいんですが)判然としなくなってきます。

 いや〜、英語って本当に難しいですね(水野 晴郎風に)。
分子生物学実験について
 小学生、中学生の頃、理科って好きでした?

 管理人は一番好きな科目でした。実験も面白かったし。ただ、学校でやる実験というのは結果が分かっているのが当然で、そうならなければオカシイということが前もって分かっているわけです。つまり、厳密に言えばあれは実験ではなくデモンストレーションなわけです(昔の人にとっては、立派な実験ですが)。

 生物学、化学、物理学に関わらず実験とはある現象を仮説のもとに証明する手続のことです。ま、現在の物理学や化学では現象そのものが仮説になっていてそれを見つけるというのも実験ですが。ましてや、量子物理学なんかでは観測することが結果に影響を与えるという、物理学というよりは哲学か禅問答のような状況もあります。

 話を生物学実験に戻しましょう。生物学といっても範囲が広いので分子生物学について書いてみますが、DNAやRNA、タンパク質を単体で扱っている分には、分子生物学実験も高分子有機化学となんら違いはありません。そこに細胞が入り込んできて初めて分子生物学になります。しかし、この細胞というのが曲者で、細胞を扱わなければならないことで話が非常に複雑になってきます。

 DNAからmRNAが合成されてそこからタンパク質が合成されるというのは、高校生レベルでも常識ですがそれは細胞内のタンパク質合成がある程度一本道だからです。細胞内のそういったシステムなら証明されるまでは大変ですが証明されてしまえば”なぁ〜んだ”ということになるのは先に述べました。”じゃ、何が複雑なんだ?”というと・・・。

 管理人が医者として考えているのは(今やっている実験と少し重なりますが)、遺伝子の変異が細胞の形態さらには組織、臓器の形態にまで影響を与えるのはどういうシステムなのかということです。臨床的には、家族性大腸ポリポーシスという病気があります。遺伝的に若いうちから大腸に無数のポリープができて、放っておくと大腸癌が発生してきます。この病気の責任遺伝子はAPCと呼ばれ、APCに変異があるとこの病気になることが分かっていて正常なAPCの役割も分かっています。

 しかし、APCに異常があるとなぜ大腸にポリープがたくさんできるのかは分かっていません。多分、異常なAPCタンパクが合成されることにより、細胞内の情報伝達に狂いが生じるのだろうとは考えられますが、それは膨大な量の細胞内ネットワークに影響を与えており、解析するのは今の技術では不可能に近いのではないでしょうか。

 大量の情報を一気に解析する技術は開発されていますが、それでさえ核酸レベルの発現をみる技術です。mRNAの発現量とタンパク質の合成量が単純に比例すればいいんですが、そうでもないところがつらいところです。

 これは正常な発生にもいえることで、ヒトがヒトの形になる(頭がひとつで、目が二つ、指が五本などなど)ことに関連する遺伝子も見つかっています。が、子が親に似る理由ははっきりしません。父親と母親から遺伝子をもらっているのだから似ていて当然というのは答えになりません。遺伝子はタンパク質を規定しているだけで、顔かたちまで規定しているわけではないからです。目の色や髪の色のようにメラニン合成酵素を規定する遺伝子ひとつで説明がつくこともありますが、多くの場合たくさんの酵素や制御タンパク質の相互作用によって表現型が決定されるはずです。

 そういったことが解析できたら面白いなと考えている今日この頃です。
アメリカ人て脂肪が嫌い
 アメリカ人に肥満が多いのは周知の事実ですが、じゃ、街に太った人があふれているかと言うとそんなことはありません。大部分の人は、スリムとは言えないまでも体型としては普通です。

 しかし、肥満に関して日本とアメリカで決定的に違うところは、肥満の人だけを集めてくるとアメリカ人には病的肥満の人が圧倒的に多いことでしょう。”どういう生活をしたらそういう太り方ができるんだ?”と考えさせられる肥満の方が多いです。NIHの職員(患者ではないです)にも、体重がありすぎて自分では歩けずに、電動三輪車で移動している人が結構います。

 そういった状況に対する対策として、アメリカ人の発想は”食物から脂肪分を抜く”ということになるらしい。Fat Freeの牛乳をはじめとして、Fat Freeが謳い文句の商品が多いです。Fat Freeのビーフジャーキーなんてものもある(どうやって脂肪分を抜くのか興味津々です、脂肪分を抜く過程で体に悪い溶媒を使っていたりして)。生鮮食料品でも徹底的に脂肪を取り除いた肉が売られています。

 ただ、一般的に言ってアメリカ人で太っている人はむしろ低所得階級に多いようです(というかそういう統計データがあるらしい)。俗に言われるジャンクフード(ハンバーガーやピザ等のファストフード)は安いけれど脂肪たっぷり(の方が腹持ちがいい)だし、一緒にミネラルウォーターより安いコカコーラをでかい容器で飲む。同じように安いコーヒーにはこれでもかというくらい砂糖を入れる。しかも、一度に食べる量(ハンバーガーは日本の2.5倍はあります。しかもおいしくない)が日本人の常識とはかけ離れている。これでは太って当たり前です。

 アメリカ人を見ていると、肥満の原因を食物の脂肪だけに求めているのではと思います。摂りすぎれば糖分はもちろんのこと、アミノ酸でさえ脂肪に合成されることを知らんのかといいたくなります。まぁよそ様のことですし、気をつけてさえいれば自分には実害のないことですから黙っていますが。

 テレビでも各種コマーシャルで”痩せる”ことを目的とした、様々な商品の情報が流れています。見ていて面白いのは、半年で60ポンド(約30kg)減量したとか流れているんですが、もともとの体重が220ポンド(約110kg)ぐらいあり30kg痩せても80kgなんですなこれが。体格が大きいから目立ちませんが、端的に言えば”病的なデブ”から”普通のデブ”になっただけ。痩せるための特別な商品など使わなくても、食習慣を改善すれば簡単に痩せられるレベルです。

 食品中の脂肪を云々する前に、”食べ方を改善した方がいいんじゃないの〜アメリカ人”と思う今日この頃です。
イラク戦争について
 2003年3月20日、米軍はバグダットに空爆を開始してイラク戦争が始まりました。

 よく知られていることですが、今回の戦争の原因である”大量破壊兵器の存在”はアメリカにとってはあくまで建前です。13年前の湾岸戦争時は突然イラクがクェートに侵攻したこともあり、秩序回復の大義名分がありました。アメリカとしてはこれでイラクもアメリカの言うことを聞くだろうと判断したわけで、その後、イラク国内の事情(クルド人に対する圧政や、シーア派イスラム教徒の蜂起に対する虐殺など)には直接口出ししていません。

 父ブッシュ政権もクリントン政権もイラクに対しては比較的寛容な態度を示してきました。が、米国が深刻な不況にあるいま抜本的な経済回復策としての”戦争”は、おバカな子ブッシュにしてみれば政権維持のための最終手段でもあるわけです。また、ブッシュ家はテキサス州の石油関連企業のオーナーでありイラクの石油(知らなかったけど、予想埋蔵量はサウジアラビアについで世界第二位なんだって)の権益は喉から手が出るほど欲しいものであることには間違いがない。

 というわけで、国連の査察により”大量破壊兵器”が見つらなかったにも関わらず、”ちょっと待て”という国際世論も無視して戦争を始めたわけですな。正義面を装っていますが、自分の気に入らない奴が自分の欲しい物を持っていると周りが止めようが武力で制圧するってのは、アメリカ自身”ならず者国家”じゃなくてなんなんだという気がしますが。

 世の中に”正義の戦争”なんてあるわけがなく、トチ狂った思想による暴挙(ヒットラーのような)か経済問題を打開するための最終手段(第二次大戦の日本)であり、当然今回も"right"という言葉は使えないでしょう。確かにフセイン大統領の独裁恐怖政治からイラク人民を解放するのは人道上大事(考え方によっては、これも大きなお世話だが)ともいえますが、それはあくまでもイラク国民の手によるものでなくてはならないわけです。米軍の侵攻によってフセイン政権が打倒されたとしても、アメリカに恩を着せられて、結局、実質的な支配者がフセイン大統領から合衆国大統領に替わっただけになるでしょう。

 実際、開戦開始に最後まで反対したフランスに対して”第二次大戦で、アメリカがナチスから救ってやったのに”という発言を耳にしています。確かに歴史的事実はそうかも知れませんが、そういうレベルでしか他国を評価できない(しない)姿勢には大きな問題を感じます(アメリカ人全員がそうではないですが)。

 2003年4月9日、バグダットが陥落し、主要な戦闘は終了しました。イラク国民の行動を見ると(これもアメリカだけに都合がいい報道しか見ていないわけですが)、フセイン大統領に対しては、恨み骨髄のようです。イラク国民が解放されたというのが事実であれば、それは喜ばしいことなのでしょうがアメリカの支配にならないよう戦後どうして行くかが彼らの一番肝要な点でしょう。

 何しろ、今回のことから分かるように、気に入らない奴は力でぶっ潰すのが正しいと考えている国ですからアメリカは。