職権乱用デス













それは、地獄絵図、または未知の体験だった。









「ちょおっと !!何この腫れ具合は?!」

「俺だって、こんな怪我だなんて思ってなかったよ!」








車に積み込まれた陸遜はそんな と母の会話を呆然として聞いていた。

すでにこの怪我を結構な時間、放置されており、さすがに動かすと痛いが痛みも慣れてきていた。

そして、呉の軍師の陸遜は頭の中で「どうやらここは異世界のようですね。」なんて、やっぱり落ち着いていたりもする。

「あのお二人とも、そんな慌てなくても大丈夫です――」

「「これが落ち着いていられる??!」」

二人の声が重なって、あたりに響いた。





「――っくそっ!陸遜、医者んとこ行くから…とりあえず、見慣れないもんばっかりだけど―――驚かないで!!」

そう言って、陸遜を乗せた車は急発進した。













車に乗ってしばらく、安全運転だった。

スピード狂の母には珍しく(と言っても、母は実は警察官で捜査一課で働いている)、制限速度を守っていて、 は安堵した。

落ち着いて、やっと陸遜に話が出来るようになった。

「…ふぅ。ごめんな、陸遜、ばたばたしちゃって。怪我は大丈夫?」

「はい、痛みには慣れています。それよりも――。」

「そうだね。初めまして、俺は 。えーっと、覚えているかな?昨日見た女は俺の双子の でもう一人いた男は弟の 。それで、その――。」

そこまで、言葉を濁して、 は頭をかいた。

落ち着いて、陸遜は聞き返す。

「――ここは異世界、というところですね?」

「察しが良いね、確かに、君達の住む三国とは違うところだよ。しかもここは…。」












そこまで、言いかけて、車が急停車した。

ガクンっと前のめりになって、頭を打った。

「どうしたんだよっ母さん?!」

運転席にいる母を見ると額に青筋が立っていた。

「げっ!!」

「…ったくも、こっちが安全運転してりゃ…大体、こっちは怪我人がいるわけなのに……。」

文句をブツブツと呟きながら、そろそろ目が逝っちゃっている。

「ヤバイ!陸遜!どこかに掴まれ!」

「はいっ?!」

二人はシートベルトをきつく締め、とりあえずどこかに掴まる。










「―― 警視を舐めると痛い目見るわよぉぉぉおおおお???!!」











そんなことを叫びながら、一応キャリア組の母はよくドラマで見る赤いサイレンを懐から出し、車のアンテナ近くの天井に窓から手を伸ばし、置いた。

サイレンが響く中、猛スピードで公道を走り抜け、病院に向かった。

これを職権乱用と言う。












治療が終わり、松葉杖をつきながら、陸遜が治療室から出てきた。

付き添いの母が病名を伝える。

「…かんっっぺきな骨折ね。よく我慢していたわね、キミ。」

「いえ…。」

実は我慢していたというより、言えなかったというのはただ心に留めておいた。

「大丈夫か、陸遜?」

「はい…。 殿の母上は凄い方ですね…。」

「あぁ…まぁ…。」

二人で苦笑して、料金を払った母が出入り口のほうで手招きをしていた。

そこで一言。












「やっぱり、サイレン鳴らして爆走した方が早く着いたわね〜。…帰りもしていきましょうか。」














その一言でまた二人が凍りついたのは言うまでもない。











お母さんが出張ってます(え)