はじまり








夜の冷たい風が通って行って、目が覚めた。

さっきまであったぬくもりはもう消え去って。

彼は無事還ったかな、なんて思っていて。

知らぬ間に、頬が濡れていた。

乱れた髪には、あの時、彼がいた証の結び玉がたしかにあった。








翌日、朝帰りの兄と姉が食卓にいた。




「そう…陸遜還っちゃったの…残念ね、一緒に無双したかったのに。」

姉の が口にご飯を運びながら残念そうに呟いた。

「一ヶ月か…なかなか長かったな。」

いつもの日課の新聞を読む が言った。

「うん。でもそのくらいじゃない?」

少し腫れた目をした が言った。




「それで ?今回は何で還れたのか、そのきっかけはなんだか覚えているか?」

「うぅん、陸遜と過ごしたことは覚えているけど…何がきっかけで還れたのか、覚えてない…。」

「私のときも同じね。そこだけすっぽり記憶が抜けてるのよね。」




も、 も、そこの記憶だけ抜けていた。

過ごした日々は鮮明に覚えているのに。

窓から朝陽がさす。

今日も昨日のような、青空が広がっていた。








「――…っ…!」

陸遜が目を開けると、そこは自分が整理をしていた書庫だった。

ご丁寧にも、自分の上に散らばっている。

「こ、こは…?!まさか、私は還れて…?」

いまだ、元の世界だと信じられなかった。

けれど、空気、雰囲気、全てがあのときのまま。

名簿が記されているものもちゃんと手元にあった。

「あれから何刻も過ぎていないのか?」

太陽の位置があまり変っていなかった。

太陽を見ると同時に、その青空が目に入った。

全然変っていなかった。

「やはり、変ってませんね…。」

体の上に散らばった書簡をどけて、窓先に行って、空を見上げた。

それを見て、陸遜は愛しい人の名を言った。

「… 、生きる時違えど…私は貴女を想っていますよ…。」

彼の掌には対になっている緋色のものが握られていた。








「――ごちそうさま。」

朝食を食べ終えて、 は席を立った。

ちゃん、早いね?どこかお出かけ??」

「うん。」

食器を手早く洗って、準備をする。

「兄さん、保険証どこかな?」

「あそこの棚だけど…医者にでも行くのか?」

はすぐに言われた棚に行き、保険証を探し当てる。

「うん。」

財布と保険証とティッシュとハンカチをカバンに詰めた は、兄と姉に笑顔で言った。







「産婦人科に行くの。」







その言葉に、二人は絶句した。

そんな二人を見て、 はクスリと笑い、早々に玄関に向かっていった。






「… …。」

「なぁに?兄さん…。」

「俺たち、この若さで叔父さんと叔母さんだぞ?」

「まだ18なのに…!」






そういう二人は、なんだか嬉しそうで、飲みかけのブラックのコーヒーを飲んだ。











いつも通る道が嬉しくて足取りが軽くなる

空は青くて、見上げてしまう。

彼は「変っていない」と言った。

ならば、彼もこの空を見ているのだろうか。






「――陸遜、私も想っているよ。想いは――」














―――――繋がっているから















緋色の結び玉で髪の毛を束ねた。

空はどこまでも青かった。












10ヵ月後、 は女の子を産んだ。










はい〜。一応「やくそく」編は完結です。新学期始まっちゃったよ…「promise」編完結遅くなりそうです(汗)そして、三部の「約束」編も遅くなりそうです〜(滝汗)申し訳ありません;

ひとまず、 ちゃんの物語はこれでおしまい。拙い文章でしたが、楽しく書きました。ご感想をくれた方々に感謝を!!