うた









「ちょいとお前さん。」





陸遜は今日の夕飯の買い出しに一人で行っていた。

その帰り道。

商店街の路地裏から引き止められた。









「私のことですか?」

「あぁ、そうだよ。」

普通の老婆に見えたが、何故か路地に机が置いてあり、その上に水晶玉があった。

陸遜は買い物袋を持って、近づいた。

その様子に、老婆は満足したように笑顔を作って言った。

「いや、悪いね。若いの。ちょいとお前さんのことで伝えてやらないと、と思ってね。」

「は?」







「近いうちに、唄が聞こえてくるだろうね、異界の若いの。それが、お前さんの道標だよ。」









「何故、そのようなことを…!」

朗らかな笑顔の裏に鋭い目つきを見て、陸遜は驚いた。

「なぁに、ただの占い婆の戯言さ。それ、これをあげよう。」

そう言って、陸遜に何かを投げた。

器用にそれを受け止めた。

「…それは結び玉さ。対になっているから、ちゃんと渡すんだよ。」




紅色の紐の両端に橙色の玉が付いている紐が二本あった。

鮮やかな色だった。






「あなたは一体…。」

それに目を取られていた陸遜が顔を上げると目の前にいたはずの老婆が消えていた。

「何者だったんだ…?」

掌には確かに鮮やかなそれがあった。











陸遜が家に戻るともう夕闇が迫っていた。

周りに林がある家は外からは完全に家の姿が見えない。





唯一玄関に繋がる道を歩いていくと、唄が聞こえた。





「唄…?!」

高く伸びる歌声が響いてきた。

あの老婆の言葉が思い出される。

(あの老婆は私の『道標』と言っていた…。まさか、私が元の世界に、『還る』ことが…。)

そこまで、考えて、陸遜は走った。唄の聞こえるところに。







還りたいから走るのではない。

還ることによって、と別れてしまう。

この異世界で見つけた優しく、気高い少女。

いつかは還るだろうと思っていたが、こんなにも心が悲鳴を上げていた。









唄の聞こえるところに行くと、が縁側でそれを歌っていた。






「――!!」

そう叫ぶと、は唄うのを止め、あの日見た笑顔があった。

「あぁ。陸遜、お帰り。」

、その唄は何なんですか?」

少し乱れた呼吸を直して、陸遜が問うた。

「この唄?昔、ばあ様に聞かせてもらった子守唄。いつも聞かせ――。」






の言葉を遮って、陸遜はを抱きしめた。






それを聞いて、あの老婆が何故、あんなことを言ったのかがなんとなく判った。




(――あの方はの…。そして――)










――家の一員。








「――陸遜?」

陸遜の腕の中で、が瞳を合わせた。

その群青色の瞳に、自分の顔が映っていて、陸遜は苦笑した。

そして、口を開いた。










「――。」










陸遜が来て一ヶ月。











「―――還るときが来たようです。」














そう告げる陸遜の表情は見たこともない、悲痛なものだった。










架橋に入ってまいりました。えっと、次回裏表現あります。滅茶苦茶(ぬるいと思いますが 苦笑)10話くらいで、やくそく編は終了となります。入学式前には終らせたい…(汗)