あなたというひと






私は呉の軍師をしております、陸伯言と申します。

書簡の整理をしているとき、呂蒙殿に、ある物を授かりました。

それは、影で呉を支えた者たちの名簿。

ふと。

見慣れない人名が書かれておりました。

その、「」という名に触った瞬間――









目の前に倒れている赤い装束の青年。

は一発で陸遜だとわかった。

「もう来たんだ…。今日は終業式だけだし、兄さんに任せれば良いか。」

さして、驚きもせず、玄関に兄を呼びにいく

兄のに陸遜を頼み、今日もらう通知表のことで頭がすぐに一杯になった。






自分が気を失っていることに気づいて、それが意識がハッキリしてくるものだとわかって、目を開けると、そこは見知らぬ部屋だった。

「――?!…こ、こは…。」

柔らかい布の床。きっとここは寝所だとすぐに気づいた。

まじまじと見る。何かの書物や、透明な板。何もかもが知らないものばかりだった。

そこへ、戸と思わしきものが開いた。

何かの椀を持って男が入ってきた。

「……!?」

『気づいたかい?陸遜。』

「なっ?!何故、私の名を…!」

「昔会った事があるんだが…まぁ、お前小さかったからな。アイツが来たときと同じで言葉は通じるのか。ほら、食べな。」

椀を目の前に出す。

疑わしい目を向けて、陸遜はを睨んだ。

「大丈夫だ。毒なんて入ってない。言わせてもらうと、ここは呉でも、蜀でも魏でもない。」

「??!」

目の前の男が、何故、自分の名前を知っているのか、しかもここは呉でも蜀でも魏でもないという。

「…詳しく、私が判る範囲で教えてくださいませんか?」

「やっぱり、陸遜は物分りが早いな。前来たアイツとは全然違う。」

そう言っては、話をした。何もかもが常識外の話を。






「ただいま。」

「おかえり、。」

終業式が終り、まあまあだった通知表を持っては帰宅した。は進路指導で遅くなる。

「陸遜は?」

「一通り、話をしておいた。理解はしただろうが、少しショックだったみたいだな。」

「そう。」

自分の部屋に行こうとするは呼び止めた。

「おい、。そこまで冷たくすることはないだろ。少しくらい顔を出せ。しばらく生活を共にするんだから。」

耳のピアスが熱くなった。

「…判ったわ、兄さん。」

早足に、は二階へと上がってしまった。

「…呪いなのか、には。」

いつまでも蒼い空を見ながらは呟いた。






から聞いた話は実際理解できなかった。

彼の話では私は帰れるらしいが…いつになるのか…。

「前のヤツは三ヶ月だった。」と言っていたが…。

「――…私は、一体…。」

戸から音がした。誰か入ってくるのだろうか。

一応、私は「どうぞ。」と返した。

「――これ、着替え。その服じゃ目立つから着替えてくれない?」

身も知らぬ女性が入ってきた。この人がの言っていた「」なのだろうか。

「ありがとうございます…あの、貴女がですか?」

の身体が、ビクッと震えた。

の瞳もそうだが、見たこともない群青色の瞳が震えた。






「兄さんから聞いたの?私は。貴方は陸遜よね。」

確認するように聞き返してきた。

「はい。もう知っているでしょうが、私は陸伯言。これから、お世話になります。」

勤めて、笑顔で彼女を見ると、なんだか複雑な表情をしていた。

「――これ、ここ置いておくから。」

まだ震える声でそう言って、部屋から出て行った。

彼女の、艶やかな黒髪が瞳に写った。







兄や姉たちに言っていないことがある。

今朝見た夢は小さい頃に見た夢の繰り返し。

赤い人に頭を撫でられたのは本当。

けれどそれは。

赤が雫となって私の上に落ちてきて。

「もう怖くないから」と言ったあの人の笑顔が。








――血にまみれていた。









彼を救いたくて救いたくて。大声で泣いた。

錆付いた香りと、彼の香が鼻を掠めていた。













――私は貴方を救いたかったのに…










陸遜









シリアス風味ですかね?(汗)これから、どうなっていくのか私も判りません(汗)