birth









「――ね、子龍。それ欲しいな。」

が趙雲の額に巻かれているハチマキのような布を指差して言った。

「これをか?しかし、汚いぞ。」

少し笑いを含めて、趙雲が言う。

「いいのよ、私が欲しいんだから。」

笑顔で、長身の彼に届くようにピョンピョン跳ねた。

その様子が可愛くて、を見下ろす。

自分の肩の高さもない小柄な彼女を見て笑った。

「では、がもう少し大人になったらだな。」

心底楽しそうに言った。

「わ、私もうすぐ16よ!」

顔を真っ赤にして反論する

微笑みを浮かべて、言う。

「その身長が伸びたら、あげよう。貴女に。」

背をかがめて、の耳元で囁いた。







「―――約束、だ。」

二人を繋ぐものが確かにあるというだけで、幸せになった。








家の庭には、いろいろな植物がある。

春には桜。梅雨には紫陽花。夏には向日葵、日々草、朝顔。秋には紅葉。冬には椿。

日本庭園風な庭は、どこか、落ち着きがあり、どこか優しさが。

裏の方には使うことが多い井戸が。

この家を包む、優しさと憂いがあった。






「この家には見たこともない草花が咲くのだな、。」

日が一番昇る午後に、縁側で趙雲とは昼食を取っている。

彼はこの家の庭を酷く気に入っていた。

この着てからの三ヶ月間、目を楽しませてくれた。

「毎日、違うものがあるから楽しいよね。」

その言葉を心を込めて言う。

食べ終わった食器をお盆の上に乗せて、は片付けに立ち上がった。

縁側に一人、趙雲が残される。

「……。」

ふと、少し影になっているところに、白い花が咲いていた。

庭の林の奥にあるそれは、酷く白が際立っている。

いつも夜にそれを見ていた。

昼間なのに、こんなに見えるとは、少し驚いた。

「…明日はの誕生日か。」

そう呟いて、から庭の花は好きなときに摘んでも良いと言われたのを思い出した。

趙雲は苦笑しながら、その白い紫陽花を見つめた。








夜。

日付が変わって、久しぶりに耳のピアスが鈍い熱さを放っていた。

翠が濃くなる。

それだけで、胸が締め付けられた。

「…子龍…!」

その熱さが、心を焼くようで、寝間着のまま、部屋の外へ出た。









途中、縁側を通ったは、林の奥から、白い花が浮かび上がっているのを見た。

その白が瞳に焼き付いて、裸足のまま、庭に出る。

何かに取り付かれたように、歩いていった。

はっと気がついて、歩を止めた。

「私…。」

耳のピアスの熱さは変らない。

また白い花を見上げると、こちらに向かってくる。

闇の中目を凝らすと、そこにはそれを持った趙雲が出てきた。

「子龍…?」

そう呟いて、目の前に趙雲が来た。

手にはその丸く大きい白い花の群集。

もう、それだけで、悟る。

、これを。」

重みのある花を彼女の腕に渡した。

彼の掌の温かさが伝わる。






それから、いきなり目の前が明るくなった。

轟々と風が吹き荒れ、葉や砂が舞う。

けれど、瞳は見つめ合ったまま。






「――子龍、ありがとう。」







花が咲き乱れるような、笑顔で言った。

白い紫陽花に滴が零れた。

光で霞がかった趙雲の顔が見えた。

何か言おうとしているが、何故か声が聞こえなかった。

彼の腕が伸びてきて、肩を抱き寄せられて、口付けをされた。

慈しむように、頬に、目蓋に、額に降り注ぐ。











―――――私は、を忘れない…    。












目蓋を閉じて、心の奥に、それと、最後に言った言葉が響いた。

短い時間だった気がするが、目を開けると。

そこにはもう、趙雲の姿は無かった。

ただあるのは白紫陽花の花。







風が舞い上がって、その花の上に何かが落ちてきた。

緑色の布。

それを手にとって、呟いた。

「…身長、まだ伸びてないのに、子龍ったら…。」

それを握り締めて、白い花を胸に抱いた。













長い夢を見たようだった。

けれど、それは夢ではなくて。

木の根元で目を覚ますと、皆がいた。

ただ、いつも額に巻いていたものが無く、そして、心には彼女がいた。



















贈り物と言うには、それはあまりにも簡単なもの。






けれど、二人を繋ぐのはそれだけでいい。

絆があればそれだけでいい。








どれくらい離れていようと。

どれくらい違うときがあろうとも。









それは二人の笑顔。















それは新しく生まれた二人の絆。
















はいー。二日漬けで書きました、姉ちゃん編最終話。精神状態がもろへこみ状態だったので、なんか微妙なカンジになりました…。たちと違って、姉ちゃんは強いんです。きっと(え)もう何がかきたいんだかわ(強制終了)

とにかく、ここまで読んでくださってありがとうございました。

次は娘の方頑張ります。