| 流れ落ちる体液が、伝って、わたしの腕に落ちた。
赤と透明な雫が落ちる。 しゃくり上げて泣く私を、そのまま、抱いてくれた。
これで、先が見えた。
「――よくやった…。」
声が、まるで。
遊女が切る痛みのようだった。
指切
文明開化の足音がすぐそこまで来ているある日の家の縁側は賑やかだった。 「ちょっと待ちなさいーっ!!ご飯残すなぁああああっ!」 「俺がそれ嫌いなこと知ってんだろ?!」 「うっさいっ!!!」 口笛をひゅぅとならして、その眼帯をつけた約250年前の独眼竜は彼女をまこうとしていた。 けれど、それを許さない。 「とりゃぁ!」 「Sit!!」 口の中に、苦味が走って、上手く飲み込めない。にも関わらず、彼女に頭を叩かれ、無理やり、飲み込んだ。 「よろしい。」 得意げな顔をして、彼女は独眼流の額を小突く。
徳川の太平の世が続いてもう約250年にもなるだろう。 家の一人娘の下に、時を越えてやってきたのは、後世に名を残している、独眼竜伊達政宗だった。 もっとも、飄々とした、異国の言葉を好む彼は、250年後の世界においては、伊達家に戻らず、隠居生活と称して、遊び歩いていた。 後世に来て、もう半年にもなる。
笑顔が、消え、口を娘が開く。
「…耳飾が、熱いの…。」 「……あぁ。」 「良かったねっ…帰れるよ?」 「………あぁ。」
この国が興ったときから語り継がれる一族の娘の口から、告げられた。 自分がまさかそうなるとは思っていなかった彼も、彼女の姿を見て、考え、言葉を繋ぐ。 先ほどの賑やかさとは裏腹に、静かな声が縁側に響いた。
それから、娘が気づいた時には、満月が浮かんでいた。 「わ、わたし…。」 これが、家の運命なのかと、もう一度思う。 父も、母も、そしてこれから先の人たちも、縛られ続けるであろうこの螺旋に娘は絶望する。 「…このまま、別れてしまうんだ…。」 そう呟いて、一筋、涙を流した。
「――この俺が、それで納得すると思うか?えぇ?」
彼独特の声が庭から、響いた。 「暴れまわってきた俺が、静かに帰るわけない。」
口元を、楽しそうに歪めて、近づく。 脇差のつばに付いている紅色の紐の橙色の玉が涼やかな音を鳴らす。
「…どういうことなの?政宗…?」 初めて、名前を呼んだ娘の声を聞いて、また彼は笑みを深めた。 脇差を抜いて、それを握らせた。 そして、景色が止まる。 いつかした、彼との約束を思い出した。
――絶望するには、早いぜ? ――は? ――俺が変えてやるよ。約束だ。 ――ふふっ…期待してる。
耳飾が一層熱を帯びる。火傷しそうな熱量と、脇差から、温いものが伝ってきた。
「ぁ…っあぁああ…っ。」
口から嗚咽しか出ない。
彼は何をした? わたしは何をした?
手に持った脇差の重みと、生暖かい温度がその証拠だった。 そして、目の前の、独眼竜が、そのまま、その腕を背中に回してきた。 「――よくやった…。」
誓いや約束をするときの”指切”を思い出す。 約束を守るために”指を切る”。 そして、遊女は、想う男性へと小指を”切る”。
「…これ、が…指切…?わたしたちの…?」 しゃくり上げて、泣いて、抱きしめる力が強くなるたびに、胸が生暖かくなった。
「一生…忘れねーだろ?」 「酷い…男だね…あんたは…。」
涙と血でぐしゃぐしゃになった顔で、無理に笑った。
一生忘れることなんて出来ない。
悲しい願いとよく聞くけれど、これで、先が、見えてしまった。
最後の一呼吸が耳元で聞こえて、屍が地面に落ちた。 夜空に浮かぶ満月が、出来事の証人。
最後の一呼吸に乗せて、耳に入った「」という彼女の初めて呼ばれた名前だけが、残った。
やっと書けました。おばーちゃんのお話。相手を誰にするか悩んだ挙句、友人に聞いて決定。ベースは某バサラな人なんですけど、ルーみたいになりそうだったので、ほとんどオリジナル…。夢と言えるのだろうか…。 んで、おばーちゃんのお話です。(二度言いました)色々な複線回収したんですけど、ばーちゃんの時のお話です。(三度言いました)この手にかけたことから、物語が始まります。(多分 え)んで、最後の方にありますけれど、「やくそく」の主人公と同じ名前です、ばーちゃん。これは前からそうしよう思ってましたけれど。 うーん…久しぶりに書いたので、微妙ですが、感想ありましたら、ください。 読んでくださいまして、ありがとうございました。 20081018 伊予 |
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