secret







暗闇が落ちたある夜に、自室の窓辺から鮮やかな朱色の花が見えた。






「…なんだ?」

そう呟いて、部屋の主の司馬懿が筆の手を止めた。

立ち上がると同時に、その花が動いていた。







「――司馬懿さまっ。」







聞き慣れた声がすぐそこからした。

司馬懿付きの女官、の声であった。

まだ幼い声で窓に背が届かないのか、ぴょこぴょこと跳ねているらしい。

その声を聞いて、薄く笑みを漏らした。






「貴様、こんな夜更けに何をしている。」

「あ、よかったぁ…!司馬懿さまちゃんといてくださったのですねっ。」

「当たり前だ。」






窓に近づいて、外を見ると、彼女の頭しか見えなかった。

あっさりと彼女を見るのを諦めて、窓に背を預けた。






「わ、わたし、司馬懿さまにこの花を差し上げたくて…!」

はそう言って、窓からその花を投げ入れた。

「綺麗でしょう?だから、その…。」






彼女の言葉足らずは今に始まったことではない。

司馬懿と初めて会ったときは、会話が成り立たなかった。

今では、ちゃんと汲み取ることが出来る。





「…ふんっ、まったく貴様がすることだな…。」

そう呟いて、花を拾って眺めた。

その言葉に、が身を強張らせた。





「…迷惑、でしたか?」





消え入りそうな声で聞いてきた。

壁越しだと言うのに、彼女のことがわかる。

その理由はすでに己自身ですでにわかりきっていることだった。

少しだけ、声を和らげて、彼女に言った。







「…馬鹿めが。今度からは窓からではなく、ちゃんと扉から来い。」







一気に彼女の顔が輝く様を思い浮かんだ。

「は、はいっ!」










全て知っているのだ。

こんな夜遅くまで、自分を心配してこのような真似をする彼女のことを。












「もう遅い。貴様はもう寝ろ、。――私は大丈夫だ。」

「…はい。おやすみなさい、司馬懿さま…。」








言葉を交わして、の気配が無くなった。








まだ壁に背を預けて、花を見ていた。

きっと、彼女が目の前にいたら隠せなかっただろう。

満足したような微笑が、司馬懿の顔に浮かんでいた。














初めての司馬懿夢です〜…。司馬懿の「懿」登録しましたよ!!(爆笑)ぴょこぴょこ可愛いヒロインを書いてみたかったんです。最初、連載の姉ちゃんはこんな性格でした。

20050501 伊予