宴から数刻、城内は慌ただしく戦の準備に追われていた。

あたしも、すぐに宴の会場から自室に戻って、準備をした。

準備と言っても、刀の手入れや身支度なのだけど。

それが終って、着物の裾が不意に引っ張られた。

見るとそこには小さな子供が裾を掴んでいる。

泣き出しそうなその顔は、見知った顔。

「――大丈夫だよ、大丈夫…。」

そう呟くと陽炎のように消えた。






―――ここが、正念場だ。













「何故いきなり魏が攻めてくるのです?!」

幕舎にいる陸遜は誰に言うまでもなくそう叫んでいた。

陸遜付きの兵が焦りを隠そうともせず「蜀が滅んだ今、宴の頃を見計らって仕掛けてきたのでございましょう…っ」と言う。

「っ…間者ですね…。今回の宴は我々しか知らなかったはず…。しかし今はその事を気にしてはいけない。急ぎ町の民を避難させてください!」

魏の軍勢は町の郊外まで迫っていた。









陸遜の指示により、直ちに兵も武将も集められ、陣を敷いた。

魏も本気では無いにしろ、やはり相当の兵力だった。

対して呉は水軍がやはり多い。陸での戦は分が悪かった。

武将が孫権のもとに集められた。

「城の守りは今や手薄。増援が来るまで耐えよ!」

孫権のその言葉を継ぐように陸遜も指示をする。

「幸いにも、魏軍の陣の後ろには川があります。甘寧殿率いる水軍が鍵です。そこから挟み撃ちにすれば我らにも勝ちが見えてきます。」

皆が鼓舞する中、の瞳は決意を込めた輝きを放っていた。

その場にいた凌統は、彼女のその瞳に気づき、そして陸遜の焦りにも気がついた。

















夜中。

さすがに魏軍も進軍を止め、松明の灯かりが遠くに見えた。

呉の陣営では、今だ戦の準備が進んでいた。

自分に与えられた幕舎のすぐ後ろの平原には一人佇んでいた。

そこは以前来た草原でもあった。




風が吹き、髪の毛を揺らす。

以前とは違う風の匂いに身を任せた。












今度の、明日起こる戦は、ゲーム上でも史実上でもありえない、あったことのない戦であった。

それならば、きっと起こるのだと、は思っていた。

自分の役割を。

受け取った想いを果たすために。






。」

後ろから声がした。

「凌統。」

いつもの、真面目なんだかだらしないんだか判らない顔をして凌統がいた。

「へぇ、奇遇だね。」

「ホントに。」

どちらの言葉かも判らない会話が続く。

ポツリと凌統が呟いた。







「…お前、死ぬなんて考えんなよ。」







その言葉は嫌に響いた。

「この戦で、お前の役目ってもんを終えたら死ぬなんて考えてんじゃねーよ、。」

少し辛い口調でそう告げた。

そして、静かな声では答えた。

「…凌統、あなたの父さんはここで『どうして鳥は空に行けるか』って聞いたのよね。」

月に映し出されたの顔は酷く虚ろな笑みを浮かべていた。







「―――想いを持っているからよ。」










そう、想いを持っているからこそ、空という世界に行けるのだ。

自分自身という『鳥』と共に。

母から受け取った想いを持って。

あたしは『鳥』なんだから。












――――たとえ、それが命を落とすことに繋がっても。


















この世界に来て、自分自身を知って、彼に恋をして。

これで固まった。

一番の目的。

母から受け取った想いを果たすために。











後ろにいた凌統とのすれ違い様には呟く。










「……父さんを死なせないためにあたしがいるの。」

















その声は凛としていて、彼女のままの声。

その声が耳に残り、風のざわめきと、怒りとも悔いとも判らない感情に凌統は拳を握り締めていた。













はい、こんなカンジです伏線(え)母ちゃんも娘に酷な想いを託しますなぁ(え)死なせないで、尚且つと会わなければ、陸遜も来ないわけで。まぁ、あと二話くらいでまとめますが。娘ちゃんの目的役目っていうのは陸遜を死なせないことでした(ちゃんちゃん)