ネオンが輝くある街の路地に一人の男が、いた。

特に特徴と言っていいほどの特徴はなく、ただこげ茶のコートに身を包んでおり、黒髪と、群青色の瞳、そして耳に古ぼけた紅色のピアスがあった。





「…やっと来たかい?」

「やっと、見つけたよ。」

いつの間にか、男の前に老婆が現れていた。占い師のような容貌で、手には水晶がある。

その老婆は十数年前に陸遜の前に現れたのと同じもの。

「時が動き出したねぇ、?」

と呼ばれた男は短く「あぁ」と言った。

「けれど、が死んだ。」

「多少の犠牲は付き物さ。」

声を荒げないようには息をし、感情をしまう。







淡々とした声のやりとりに、暗闇がこの場を支配する。

「多少の犠牲が必要というのなら、もそうなのか?」

群青色の、一族特有の瞳が光を帯びた。

「それは、どうだろうね。あたしにはもうわからないよ。」

「貴女は連鎖を断ち切ろうと今まで色々な糸を張り巡らしてきた。俺が戻ってこれたのもその一つ。」

老婆はただ無言で、口元に笑みを浮かべるだけだった。








「けれど、貴女はここで一つミスをする。」

老婆の顔に変化が起きた。

「俺は『行った』年の数年前の過去に『戻って』きてしまった。」

その所為で本当はすぐ下の妹とは3つしか離れていなかったのが、10歳近く離れてしまった。

もちろん、妹たちはそれに気がついていない。

「ここから貴女の糸は絡まってしまった。」

の声がビルの壁面にあたり、響く。










「本当は、の元に陸遜は来るはずが無かった。の元に趙雲が来るはずも無かった。…ましてや、が生まれるのも」

「そのくらいで良いだろう、?」

の言葉を遮るように老婆が声を発した。

「あたしは、過ちを犯し過ぎた。それで良いだろう?」

「それで良いならは死ななかったさ。」

その声は冷たく響き、男の手には以前孫家にいた頃の自分の得物があった。













「――もうすでに、時は動き始めた…。螺旋が閉じ始めようとしている。」

「どれが真実で嘘なのかわからない。良いことか悪いことかも。」

「それならば。」













どちらの言葉かも判らない声も途切れた。

「――貴女は生き過ぎ、俺たちの代に介入し過ぎた。」

切っ先が老婆の喉元に当てられる。









「…あとはお前たちでやると良いさ、。」

「そうさせてもらうよ、祖母さん。」












腕に力を込め、皮と骨しかない喉に刃が通る。

血は噴出さず、代わりに、風に乗って塵が舞い、老婆だった物は衣類だけになった。










「――『過去』は貴女だけで十分だ…。今ここにいるものが真実なんだから…。」








自分が違う時代に帰ってきたことも、の元に趙雲が来たことも、の元に陸遜がきてが生まれたことも、老婆の思い描いていた未来とは違うもの。

きっと祖母もと同じように螺旋を、運命を変えようとした。けれど、彼女の歯車は違う方向に動き出した。の方向へ。

すぐに、未来は変わってしまう。

過去に囚われ過ぎ、未来を変えようとするのもまたある意味での未来。










どんなにあがいても、動き始めたものを止めることは出来ない。












「――が死んだのも、あいつの意思がそのままになったのか…。なぁ、?」

すぐ後ろに、喪服を着たが闇に溶けるように立っていた。

「…結局は誰にも判らないのよ、未来なんて。だけど姉さんは安らかに逝ったわ、兄さん。」

「あぁ…そうだな、。」









「これからのことだって、何にもわからないのよ。」












今この場にいるのが真実。想いと同じでここにあるものが。

遠い時空の中に行ってしまった娘に、二人は闇の中で輝く星を重ねた。














超補足説明をば(痛)間引き、です。んで「動き始めてた」んです。もうずっと前から一族の悲しみを閉じる運命が。それが明確に現れたのが、兄が戻ってくるはずがないのに戻ってきたということ。しかも、自分がいた時代より10年も前の世界に。計算すると、本当は兄16歳・姉13歳・妹11歳だったときに兄は行って、帰ってきたら、姉3歳・妹1歳だったと。ここからもう違っていたんです。「やくそく」と「promise」の場合、本人たちの周りでのこと、本人が大切なことに気づいてく等本人(主人公)を中心として、一族について描いていましたが、その一族の周りを今回のお話が取り囲んでいるカンジ。

んで、老婆は祖母だったわけなんですけど。彼女ものように一族の悲しい運命を変えようとしていました。けれど、時の運は彼女に向かなかった。想定外の出来事(小説参照)が起こり、全てが違くなってしまった。と祖母の大きな違いは、祖母は計画性があり、は心のままに事態が目の前に来てから考えたことでしょうか。ちなみに、陸遜に渡した結び玉は孫を憂いてこそのものであって、彼女の計画の一端ではありません。

まぁ、結局は兄のことが発端でが動かし、それの動きは止められないけれど、未来はその流れとともにわからない、ということでしょうかね。