ある晴れた昼下がりに、は愛刀を携えて、脇の髪を後ろで紅い結び玉で縛り、鍛錬場に向かって歩いていた。

ほとんど、先の戦で負った傷は癒えていて、右耳と右目の難も慣れ始めていた。

今まで簡単な格好で鍛錬をしていたが、今日はしっかりと、母から貰った着物でするつもりだ。




何故かと言うと。

数日遡るが、の回復を待って、呉でやっと戦の勝利の宴が開催されるという。

そこで、孫権は、の舞が見たいと言ったのが始まり。

踊れないとやんわりと拒否したが、孫権はただただ笑顔で返すだけだったのでこれはもう、ということでが折れた。

もちろん、陸遜や凌統に助けを求め、今日まで舞の練習をしていたということである。

舞と言っても、ただの舞ではない。

武人が求められる舞とは…つまり剣舞である。

現代で剣を習っていたは「とりあえず」しか判らないのであった。

そして、今日はその練習の最終日、本番と同じ衣装で同じ型でするということである。

だから、心なしか、いつもよりは無口で愛刀を握る掌には汗がびっしりかいていた。

(…なんで、あたし折れたんだろう…。)

心の中で、毒づいて、戦場では凛とした眼差しも、壮麗な顔も、全部が台無しの顔面蒼白である。

溜息を付いているうちに鍛錬場に着き、陸遜と凌統が待っていた。








「おせーぞ、っ!」

イライラした口調…もとい顔で凌統が叫ぶ。目元の泣きぼくろが忌々しく感じた。

何だかんだ言って、凌統とはこんな関係に今は落ち着いている。

「うぅ…逃げたい…。」

「そんなこと言っても駄目ですよ。」

横から陸遜がダメ出しを言う。

「だ、大体、ここの剣舞ってあたしが習っていたのとぜんぜっん違うんだもの…!武器の作りが違うっていうのもあるのに…!!」

「周泰とほっとんど同じじゃないか、お前の武器。」

「うっさい!」

「そんなこと言ってないで、早くやりますよ、二人とも!」

そんな三人を太陽だけが見ていて、笑うように日差しを強くするのであった。








鞘を抜かず、が刀を持ち、陸遜に教えられたように体を動かす。

最初に、次に凌統、最後に陸遜が入り、三人の舞となる。

刀と双剣、棒の打ち合い。

陸遜と凌統はただを目立たせる存在でもある。

異世界から来た少女の、刀と、靡く髪、舞う彼女の舞なのである。













一通り流れと型の確認をして、三人は武器を納めた。

何だかんだ言って、は物覚えが良い。

「それでは、今夜ですね宴は。」

「ねぇ、父さん。本当にあたしこんなぼろぼろの着物で良いの?」

現代から着てきた着物は大事に着ているつもりでも、ちゃんと手入れや洗濯をしていてもやはり所々少しだけすれていたりする。

「文句言うなっつーの。お前はそれで十分だ。」

「仲間内の宴なんですから、普段着で良いんですよ、。」

そんなことを言われては、何も言い返すことも無くなったは、ま、いつも着てるヤツで動きやすいか、なんて頭の中で考えた。

「でもなんで、あたしを待ってまで宴を長引かせてたの?早くやれば良かったじゃない。」

「そうも行きませんよ。、貴女も呉の武将なのですから。」

「そういうこと。」

「それに…。」

陸遜は少しだけ苦い顔をして続けた。





「蜀を滅ぼした今、呉は活気付いています。そして、魏も私たちを見逃しておかない…。この宴は近いうちに起こる魏との戦の…。」






そこまで言って、言葉を濁し、陸遜は「それでは」と言い残し、足早に去っていった。










「……どしたんだろ、父さん…。」

その様子を呆然とは呟いた。

「心配なんだろ、お前のことを。」

いつの間にか、横にいた凌統がの目の前に来ていた。

「まったく殿も面白いことするよな、に舞いをさせようだなんて。」

「それどういう意味、凌統?」

「別に〜。」

凌統はその独特な笑顔でを笑わせ、一瞬真面目な顔をして、彼女の頬に手を寄せた。

「?」

「でも、ま。――っ。」

掌でを包み込むように触れ、彼女の暖かさを確かめた。

「――…それじゃ、夜な。遅れんじゃねーぞ。」

その手での頬を伸ばして、背を向けて去っていった。

残るのは一人で。

つねられた頬に手を添えて、やっぱり顔を赤くしていた。











夕闇の帳が落ちて、炎の灯かりがあたりを柔らかく包む。

先ほどから宴の会場では笑い声が響きあう中で、その会場の裏では刀を抱え、緊張に震えていた。

の格好はと言うと、やはりいつもの着物だった。

けれど、顔には少しだけ化粧もしてあり、紅が刺してある。

侍女たちが気を利かせ、鍛錬が終った後、早々に湯浴みさせ、着物を綺麗に洗い、繕ってくれた。

今では、煌びやかな衣装と同じくらいでもある。

本当にあの世話好きな侍女たちに頭が上がらないであった。






そんなことを考えていると、一通り挨拶を済ませた凌統が少しだけいつもより、きっと舞専用の衣装なのだろう。それを着て、入ってきた。

を一目見るなり、眉をしかめた。

「…ちっ…あの侍女たち…。これじゃあぶねぇっつーの。」

そんなことを呟かれて、緊張真っ只中のは唖然とする。

そして、いきなり腕をつかまれ、引き寄せられた。

「――んっ?!」

いきなりの口付けに目を見開いた。

なんであたしってこんなにいきなりのキスが多いの、なんて考えてもみたりする。

一瞬か長い時間か、やっと離された時、顔がまた真っ赤に染まり、凌統に抗議をしようとする。

彼を見ると唇に自分と同じ紅がついた。

「お前、紅濃すぎだ。」

「ちょっ!」

「二人とも準備は良いですか?出番です。」

の抗議は出番を告げに来た陸遜に遮られ、あれよあれよと言う間に会場の中心に出された。













音楽がなり、先ほどの出来事がすぐに頭から離れる。

愛刀と自分が一体になった気分だった。

練習どおりに自分は舞っているのだろうか?

頭が真っ白になりながら、凌統が入る曲面となった。

彼を見ると、笑みを浮かべて、自分の方を見ていた。








ふと。










あの日。夢で見た叔父の言葉を思い出す。




『二人のようにではなくて、君は凌統と「幸せ」を続けても良いんだよ?』




それを思い出すと同時に、白い羽が周りを包み込んだ。

自分だけが見ている幻影かとも思ったが、どうやら自分と凌統にだけ見えるらしい。

驚いて、けれど、彼の方を向くと、やっぱり笑み浮かべていた。

まるで「そろそろ答え、聞かせてくんない?」なんて言っているように思う。

今まで緊張していたのが嘘のように、頭が澄んできて、いつの間にか、練習とは違う舞を踊っていた。

けれど、凌統はそれについてきて、に合わせていた。









二人の剣舞を横で見ていた陸遜もまた笑みがこぼれていて、皆に聞こえないように呟く。

「――…ふふ、まるでの舞のようですね…。」









すでに鞘から刀は抜かれ、真剣での打ち合い。

一つ間違えば、大怪我だというのに、二人は息の合った舞を魅せる。

(――…あたしの想い、きっと重いのだろうけど――。)

全てが研ぎ澄まされたように、切っ先が光る。

(あなたと一緒なら――!)

その風でさえも心地よく感じた。












(――…最初、お前と出会ったとき、舞っていたっけ。)

凌統の目の前には、羽を従わせたが舞っていた。

(やっぱ、お前は『鳥』なんだな、。)

そう語りかけるように、舞う。






音が止み、周りは拍手と声でかき消された。

結局陸遜はその後二人の舞には入らなかった。

荒い息で二人はお互いを見て、笑った。











その二人の間に白い羽が一枚舞い落ちるのと、兵が駆け込んで魏が攻めてきたのを告げるのは同時だった。












どもお久しぶりです。久しぶり過ぎてキャラの性格が未だにわかりませんな伊予です。

次の場面は最終です。それまでにこの話ともう一つ閑話で2クッション置きます。その間に無双プレイして、物語掴んできます(え)

そろそろ終盤ですので、お付き合いくださればと思います。