|
纏わり付く汗と布がとても邪魔だった。 もうすぐ、貴方に会えるというのに。 汗で少しくせっ毛の髪の毛が張り付いた。 口に当てられている酸素マスクが慌しく曇った。 目の前がかすれて、生理的に涙が出た。 薄く微笑んで、私は目を閉じた。
思い出すのは、私が高校入学当初の、懐かしい思い出。 いつも笑ってた。 隣にいるのは、少し背が高くて、真面目な彼。 いつも歩いた道が懐かしく思えた。
『子龍、また雨が降ってきたね。』 『あぁ。ほら、濡れてしまうぞ。』 『は〜い。…えへへ、私、雨って実は好きだよ?』
私はそう言って、彼の身体に抱きついた。 彼は苦笑して、笑う。
彼がどうやって帰ったか、記憶がすっぽり抜けてしまって、ただ、腕の中にあった白紫陽花の花が、暗闇に浮かんでいた。 それでも、記憶が全部抜けているということはなかった。 そして、その花の上に落ちてきた緑色の布。 以前から、私が欲しいと言っていたもの。 『――…まだ身長伸びてないのに、子龍ったら…。』 そう呟いて、微笑んだ。 ただ覚えているのは、彼の暖かな口付けと、私に掛けてくれた言葉。 それだけで、今日もまたこれからも生きていけると思った。
ちゃんがちゃんを生んで、しばらく経ったある日。 身体に異変が起こった。 すぐに検査をして、兄さんと、お友達のお医者様が、病名を告げた。 驚いたけれど、冷静に受け止められた。 その日のうちに入院した。 病室で兄さんが言った。 『お前、実は覚えているんだろう?趙雲が帰ったときのことを。』 『…どうだろう。』 ただ、微笑んでそう言った。 『がそれで良いって言うのなら、俺は良いさ。ただ、覚えている者がなる病だよ。昔から。』 兄さんの優しい手が、私の頭を撫でた。
自分が流れていくのが判った。 目の前に流れ出す、赤色は自分のものだとすぐに判った。
「――…ま、た…会えると…ずっ…と……――。」
身体が重い。 少しづつ目蓋が落ち、目の前が明るくなった。
あのときのように、はが頭を撫でるので気がついた。 「――…にい、さん…。」 「気がついたか?。」 「うん…。ね、ピアス、があついんだ…。」 「じゃぁ、きっとは会うことが出来たんだな、趙雲に。」 「うん……っ。」 酸素マスクが邪魔だが、は笑った。 汗で髪の毛が纏わり付いている。 身体にはいくつもの点滴やチューブが、されていた。 そして、いつも手首に巻いている布のは今日は解かれていて、の掌に握られていた。 「ちゃんに、ありがとうって…もし、戻ってきたら、伝えてね。兄さん。」 「そんなこと、言わなくても判っているんじゃないか?なら。」 「あは…そうかも。それと、ちゃんに、今年も、白紫陽花咲いたか聞いておいて?」 「あぁ。」 段々と、息が荒くなってくる。 布を握る握力が弱くなってきた。 「――兄さん…私、幸せ、だったよ…?」 「あぁ…。」 にっこりと笑って、は一旦、目蓋を閉じた。 そして、再び、開けると、今まで見たこともないような笑顔で、布を握っている掌を、力を振り絞って、空に上げた。
一旦、目蓋を閉じて、開けると、霞んだ先に、彼がいた。 いつもの変わらない眼差しで。 私は、彼から貰った布を握っている掌を彼に向けて、上げた。
まるで、抱きしめてとせがんでいる子供のように。
「――ずっとね…ちゃんに、頼んだんだけど、ずっとね。自分の口から言いたかったんだ、子龍。」
上げた掌から、彼のあの暖かさが伝わってきた。
『――判ってる、。』 「そう?えへへ…でもね、ちゃんと伝えたかったの、子龍。」
彼の腕に抱かれて、懐かしい温もりが身体を伝う。 頬を濡らして、私は、子龍に伝えた。
「―――――大好きだよ、子龍。」
幸せそうな表情をしている妹を見て、は、また髪の毛を撫でた。 もう上下することの無い胸や、身体は痩せ細っている。 けれど、満足した、どこか彼女が彼女だと言える雰囲気を纏っていた。
「――――礼を言うよ、二人に。」
もう曇ることの無い酸素マスクを口から取り外して、脇に置いた。 そのまま、部屋を出た。 握られていた緑色のあれは、掌に、無くなっていた。
あの日の、二人で歩いた道のように、ただ、二人で。
うぉぉぉぉ!!!姉ちゃん編、これにて終了ー!!というか、姉ちゃんのお話はこれでおしまい。もともと、連載当初から、こういうラストにしたかったのですよ、姉ちゃん。「promise」編の最終話とでも言っても良いかも、この話。結構に自分感情移入しちゃって、初めて、自分の小説書いてるときに涙出しちゃいましたv(てへv)←え 死ネタですが、悲しさじゃなくて、と趙雲のような穏やかな、お互いを信じあって、繋がっているお話として書けて良かったです。 連載「やくそく」まだまだ終りません(爆)やっぱり20話行くかなー。 |
|||