会話







真夜中だというのに、あたしは「父さん」とたくさん話をした。

濡れた頬がまだ乾かないけれど。

母さんがどんなに父さんを愛していたか、泣きながら伝えた。

色々なことを話したけど。

母さんから唯一つだけの願いは。





言えずにいた。















「――そうですか、凌統殿がそんなことを。」

「ホント、子供みたいなカンジがしちゃって、喧嘩、っぽくなったの…。でも今はなんだか、わかる気がする、アイツが言っていたこと。」

二人で、部屋の隅に書かれている 落書きの文字を見た。

「ですが、これからは出来るでしょう? 殿がこう書かれたように。」

「うん…。この世界で初めて会った人だし。それに…。」

言葉が濁ってしまった。

けれど、一緒に話していた陸遜はただ優しく微笑んだ。

「大丈夫ですよ、 なら。さぁ、もう遅いです。」

そう言って、陸遜は扉の方へ歩いていった。






「また明日。――父さん。」

「えぇ、おやすみなさい、 。」






無機質な音を立てて、扉が閉まって、陸遜の姿が消えた。

一人部屋に残された は、また寝台に腰掛けた。

さっきまで、悩んでいたことが嘘のようで。

自分の弱いところを母のように、父に支えられた。

そして。





「――…明日、会いに行ってみようかな、凌統、殿に。」





なんだか、自分に突っかかってくるアイツに。

まだまともに話したことがないから、どう呼べばいいのかわからない。

無双でやった時の、甘寧のような態度だったと思う。

夢に出てくるのだから、自分と凌統は…。

段々と、眠気が襲ってきて、そのまま寝てしまった。














寝ている間、また夢を見た。

またあたしは戦場にいて、刀を持っていた。

けれど、背中に当る暖かい人がいた。

その人に、軽口を叩かれて、苦笑した。

そして、あたしはこう呟いていた。





「――本当なの?そのこと。」

















朝陽がまぶしくて、目を開けた。

いつもの見慣れない部屋。

この世界に来て、初めての朝を は迎えた。








朝食を貰って、他の武将とも挨拶を交わす。

一応の の立場は客将とのことだった。

武将たちは快く、対応してくれた。

ただ、凌統の姿だけが見えなかった。

「尚香さん!」

「あら、 。呼び捨てでいいわよ!で、何?」

歳も近い孫尚香に は凌統のことを聞こうとした。

「あ、えぇ。それで、その、凌統殿はどこにいるかわかります?」

「凌統なら〜…多分修練場じゃないかしら?」

「ありがとうございます。」

「だから、そんな固くならなくて良いから。」

「は…うん。」

そんなやり取りをして、尚香の元を去った。

なんだか、仲良くなれそうな気がした。











(昨日はいきなり武器で襲ってきたから…別に逆でも良いわよね?)

修練場の片隅で はそんなことを考えていた。

少し先に、まだ気づかない凌統がいる。

鞘を抜かずに、彼に襲い掛かった。

「たぁああぁあぁあっ!!」

それに驚いた凌統が、自分を弾いた。

「何のマネだよ?!」

吐くように言われた。

「昨日あんたがしたことじゃない?」

昨日のようではなくて、少し砕けた感じで はそう告げた。

その砕けた口調にまた凌統は驚いた。





「で?何の用だよ。」

にそう背を向けて呟いた。

「ただ、ちゃんと話そうと思って。あたし、こんな状態、嫌いなの。」

そして、淡々と話し始めた。













の言っていることは、とても信じがたいことだった。

異世界から来たって?バカ言ってんじゃないっつーの。

ただ。

この話が本当なら、彼女から感じるものもなんとなく、納得行く気がした。

それに、あの鈴の煩い野郎と違って、ただ、俺が壁を作っているだけだと思った。

そう思ったら、途端にバカらしくなった。

そして、彼女が言った「夢に出てくる」と言う単語に俺は敏感に感じた。

それだけで、今までわかっていた気持ちに、また確認が取れた。












「――で、これが全部。」

背を向けたままの凌統に全てを話し終えた。

まだ数個、隠していることがあるのも事実だけど、それはまた今度に話すつもりでいた。

少し沈黙が続いて、大きな溜息が聞こえた。





「…はいはい、判ったよ。昨日のような態度はしない。」

彼らしい砕けた口調でそう言ってきた。

振り向いた凌統の瞳と の瞳が交差する。

お互いに、口に出さないけれど、信じることが出来るような気がした。









「けど、お前、そんなこと俺に話しちゃって良いわけ?」

「いーの。あたしが話したかったんだから。」

その言葉に、顔が赤くなりそうなのを堪えた。










「けどさ、どうして、あんなに嫌な態度したのよ、凌統、殿?」

「ったく、呼び捨てで良いよ。それは――。」

そこまで、言って、言葉が詰まった。















――惚れて、嫉妬したなんて言えないっての。


















「――誰だって最初は警戒するってことだよっ。」

自分の考えたことが相手に伝わらないよう、早足で、通り過ぎようとした。

けれど、後ろから、 が付いてくる。

「じゃあ、なんであの時…――」









その日、廊下で、じゃれているとしか思えない二人が見られた。

そう冗談で言うと、二人して、否定したという。













久しぶりの更新です〜…。だって前回からの話でどう続けようか、カナリ迷ったんだもん(汗)そして、全然凌統のキャラを掴めていない自分に脱帽(え)ごめんなさい。一晩で立ち直って二日で凌統と和解できる はすごいですねー!今回はコロコロ変る を書けたと思います。