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親子
今まで、父と母を想っていた。 ずっと。
「まったくもうっ…!何よアイツ…!!」 女官から与えられた寝間着を着ながら、は乱暴に自分の浴衣を寝台に投げ入れた。 壁に書かれた叔父の言葉が目に入る。
(そんなこと、出来るって言うのかしら、あんなヤツに。) そう思いながら、投げ入れた浴衣を自分で畳んだ。
にとって、母の言葉は、自分の全てだった。 だから、母に「鳥」だと言われて、まず誇りがあった。 「」と呼ばれるたびに、父と母のことを想った。
『――はっ、それだけしか言えないんだったらそんな名前要らないんじゃねぇの?!』
にとって、それだけが、という一人の少女を表現できる唯一の言葉だった。 そういわれて、父と母を侮辱され、そして、自分自身の存在が否定されるような言葉だった。
そこまで考え付いて、ふと疑問が起きた。
「――…あたし、自身は『鳥』なの…?」
口に出して言うと、すぐに部屋に響いて消えてなくなった。 母は自分のことを「鳥」と言った。 けれど、では、自分はそう思っていたのだろうか? 家の、「鳥」。 それが、どういう意味を持つのか、『自分自身でそんなことを考えていなかった。』 今まで、信じていた「母」が壊れていくのを感じた。
「あ、あたしは…あたしは…。」
今では、凌統が言った、「信じない」ということが、よく判った。 何故信じないかというと、それは「自分自身」ではなかったからだった。
夜の回廊を凌統は歩いていた。 昼間ののことを考えながら。 あの女は気づいただろうか? 「鳥」だと言ったあいつは、酷く虚ろな存在だった。 まるで、あの戦場のときのように。 それならば、一体はどこにいるのだ。 凌統は以前、自分も父の背中を追っていたのを思い出した。 その頃の自分と重なって、酷く、悪い感じがした。 そして、陸遜のあの態度も。 気にかけていることはもうすでに理解している。 「――うるせぇんだよ…。」 そう、自分か、か、陸遜かに呟いて、夜の闇へ向かった。
陸遜は胸騒ぎがして、どうしても、今日、に会わねばと思っていた。 そして、の部屋の前に来ている。 少し緊張して、扉の戸を叩いた。 返事がない。 「…?」 疑問に思って、思い切って戸を開けて、中を見た。 そこには、肩を抱いて、震えているがいた。 その姿が、に似ていて、目を細めた。 静かに彼女の元に歩み寄った。
「――。」 静かな声音で、そう言って、傍まで来ると、膝を折って、彼女と同じ目線になる。 「―陸、伯言…。」 が顔を上げるとそこには、同じ群青色の瞳が震えていた。 と同じ。 彼女もまた、のように、苦しんでいるのだと、すぐに陸遜は判った。
「…こんばんは、初めまして。」
見る見るうちに瞳が潤んだ。 何か言いたげだけれど、言葉に出来ずにいる。 初めて、父と呼べる人が目の前にいるのに、出来ずにいた。 「…に、本当に良く似ている…。」 大きな掌が、同じ色をした髪の毛に触れた。 その途端、瞳から大粒の涙が零れ落ちて、言った。
「あたし…あ、たしずっと母さんと、父さんを想ってっ。ずっと、自分は『鳥』だって…!でもっ自分自身じゃなくて…っ凌統に、そう言われて、あたし――!!」
嗚咽を堪えて、そう言った。 (――凌統殿はに自分を見たのですね…。) かつて、自分も親を想って、自分自身を見失っていたことを彼はに見たのだろう。 「――は、ここにいます。」 きっぱりと、優しい声音で言った。
「そして、これから貴女自身の『鳥』が飛び立つのです。」
母はここまで、自分と言う「鳥」を飛び立たせた。 これはそこまでの所にしかいけない。 そして、今からは、
自分自身という翼で飛び立つのだ。
あまり歳がかわらないのに、本当に「父」だと思った。 ただ、あたしが、母さんに甘えていただけなんだ。 陸遜が言ったように、母さんはあたしをここまで飛び立たせてくれた。 そして、これからはあたしが飛び立つんだね。 今はまだ、その理由は判らないけれど、あたしは、これから。
一回だけ、俯いて、顔を上げた。
「――初めまして、父さん。」
笑顔を浮かべて、陸遜にそう告げた。 涙に濡れた頬が、笑顔に染まった。
そして、ふとあの凌統の姿が瞳に浮かんだ。
難産ー!!!!(滝汗)そして、初のMIDIを付けてみました。曲はリンクからどうぞ(え) うぇーっと、あれですよ、は超マザコンで凌統は脱ファザコンだったのですよ(え)そして、陸遜と再会しました。なんだか、あっさり風味で私自身も驚いております。 この三部目は凌統との連載なんで、陸遜はあえて脇役で。趙雲も同じですね(笑) |
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