何故







ゲーム画面で見たことのある兵士たちが、目の前で絶命していた。

血の錆付いた匂いが漂う。

それだけで、眩暈を覚えた。

足に柔らかい感触がした。

見ると、虫の息の兵があたしの浴衣の裾を掴んでいた。

何か言いたげだけれど、それも言えぬまま、息絶えた。

開かれた目をなるべく優しく手で閉じた。

気づくと、回りは剣や槍を手に持った兵に囲まれていた。

それは、この下に眠っている兵の敵。

一瞬だけ、瞳を閉じて、浴衣の裾を帯に挟んで、動きやすくする。

自分の愛刀を抜いて、叫んだ。






「――あたしに近づいた者は、斬るっ!!」













返り血の付いた顔で女は俺を見てきた。

酷く、憂いの帯びた表情をしていた。

もう一度、俺は問を投げた。

「お前は何者だ。」

「あたしは、一族の鳥よ。」

それしか、返答してこない。

「…なんにせよ、助けてくれたのは感謝するぜ。」

そう言ったら、遠くから、勝利の声が聞こえてきた。

自分は苦戦していたが、あちらの本陣は軍師の策どおりに動いたらしい。

その声と重なるように、女が低く呟いた。

「――ごめんね、ごめん…。でもあたしは止まれない…。」

「は?」

その言葉の意味が判らなくて、聞き返した。

女と目が合った。

瞳は見たこともないような、群青色をしていた。

そして、どこか、見たことのある面影が。

「――それより、貴方。呉の武将でしょ。殿に会わせて。」

いきなり、そんなことを言われて、睨んだ。

「は?何言ってんだよ、敵か味方か判らないヤツに。」

「それなら、あたしは捕虜にでもなんにでもなるわ。」

金属音を立てて、剣らしきものを鞘に収めている。

本当に、頭のイカれた女だと思った。













愛刀は、兵に取り上げられて、あたしは今、孫権様に会う為に、縄に縛られて、城を歩いている。

あたしの奇妙な姿に廊下ですれ違う者たちは驚きを隠せないでいる。

顔に付いた返り血を拭いてもいないのだから。

あたしが初めて会った武将は凌統。もちろん、ゲームと同じ顔、声だった。

ふと、顔を上げて、廊下の角を見た。

ゲームで見た、赤い装束に身を包んだ若い軍師が見えた。

それだけで、初めて、人を殺した悲しさが和らぐ感じがした。

心の中で、何度も謝った。














「――ふむ…。戦場で、そのような娘を捕らえたのだな、凌統?」

「は。いかがいたしますか。」

いつもの砕けた口調ではない。

凌統は頭を垂れ、頭上の孫権をまた見た。

しばらく、孫権は考え、楽しそうな顔をして言った。

「その者をここに連れて来い。良いな?」

「…は。」

その顔に笑みを浮かべている君主を見て、やはり凌統の頭には疑問符しか浮かばなかった。












叔父に教わった礼を終え、まっすぐに は孫権を見た。

瞳が合って、孫権の楽しそうな顔が見えた。

「名は?」

叔父から、孫家には 家のことをちゃんと言っていると言っていた。

そして、叔父は昔、幼い孫権と遊んだとも言っていた。

「―名 、姓を、、と申します。孫権様。」

それを聞いて、回りの、事情を知る者。そして孫権が頷いた。

「…良く着た、 。やはり、良い目をしているな。」

その言葉と同時に、縄が解かれた。

「部屋を用意させよう。今は、休むのだ。」

「はい。」

そういわれて、本当に、心底、安堵した。











(あの方は…。)

少し先の廊下で、見たこともない女性を陸遜は見かけた。

剣のようなものを持ち、見たこともない着物の女性が、女官のあとを歩いていた。

新しい客人かと思ったが、すぐに、その考えを捨てた。

何故なら、髪留めに。

あの。

彼女に贈った揃いの物が、あったからだった。














何故、あの女は自分を「鳥」だと言ったのだろう。

そして、俺は何故、あの女を鳥のように思ったのだろう。

気持ちが判らないまま、いつもの木の傍に行って、背中を預けた。

彼女の、戦場で舞う姿がやけに思い出される。

そして、縄をかけるときに、わずかに触れた肌が、暖かいのを思い出した。

何かを宿した眼差し。

ただ少し。

今日見た表情とは違うものを見てみたいとも思った。








「――…俺らしくもないってーの…。」









それだけ、呟いた。














う〜ん…。あまりまとまりのない回になってしまいました。申し訳ない(滝汗)一応、凌統には片思いをしてもらいます。そして、は父親に会いたいーみたいな?(え)これからのこと、作者の自分も判りませんv