『気持ち』の中の花
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「違うっ!どうしてここが分からないんだっ。」
数学科務室に響く位に私は怒鳴ってしまった。 彼女がテスト前だからと言うことで個人補習を申し込んできたのである。
『…先生、ここの単元が本当に本当にっ分からないので補習してください!!』 『だが、君なら一人で出来るだろう?』 『忙しいのは分かっています…でもっ先生に教えてもらいたいんです!!』
何故、あそこで断らなかったのだろう…。 彼女に知られないように心の中で溜息をつく。 その言葉の通り、その単元では、いつもオール100点の彼女がケアレスミスはする、計算は間違うとボロボロだった。
私に怒られたのがショックだったのか少し涙目になっていた。
「…私は怒りたいわけではない。」 「…分かっています、私がちゃんと理解していないから。」 目元を拭い、彼女はハッキリとした口調で言う。 その声には強い意志が篭っていた。 「よし…さぁ、もう一度だぞ?ここの2S=19×4(n-1)が…。」
気づくと、窓の外は夕闇が迫っていた。 彼女はというと今日の補習の仕上げのテストを黙々とやっている。 彼女のこの直向さが、私には眩しかった。 私もこの教師と言う職は自分なりに頑張っているつもりだ。 だが、この頃、ふと思うことが多々あった。 自分の心の中の種を冬眠させているように、感情を押し殺しているように。
「――先生、出来ました…!」 夕焼けに目を取られている間に彼女はテストを書き上げ、私に手渡してきた。 「…丸付けをするから待っていなさい。」 「…はい。」 部屋には機械的な、事務的な丸を付けるペンの音しかしない。 テスト用紙を見ると、何度も何度も計算した形跡があった。 (…君はなんでも頑張るんだな…勉強も、生活も、全ても…。) そう思うと、そんな彼女がとても羨ましく見えた。
緊張している彼女の手に丸付けを終わった用紙を返した。 「…あっ!!」 「…よく頑張った。満点だ。」 理解力の早い彼女のことだった。すぐに満点を取る。 「先生っ!ありがとうございましたっ!!!」 嬉しかったのか、用紙をぐちゃぐちゃにして私に一杯の笑顔を見せてきた。 「いや、君が努力したからだ、テストも頑張るように…。」 「はいっ!」 本当に嬉しそうにドアに向かう。 ふと、彼女は止まり、くるっとこちらに向いた。
「――先生もお仕事、頑張ってくださいね!お体を壊さないように。では、失礼します!」 ちょっと頬を赤くしながら元気よく、バンッとドアを閉めて出て行った。 つむじ風が通り過ぎたような静けさに包まれた。
「…く、くっく…。」 その彼女とのギャップに、私は笑ってしまった。
心の中では、彼女の笑顔しか浮かばなかった。 これが、彼女の魔法なのだろうか。 まるで、その笑顔が花のように思えた。 fin |
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あとがっき。 先生、精神異常引き起こしましたか…?(汗)すみませんすみませんすみません…っ!!!!何度書いてもやっぱり上手くいきません;ちなみに今回はドリーム抜きでしてみました。 読んで下さいまして、ありがとうございました。 2003 5 19 伊予 |
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