「メイプル・キス」





この頃、私、は悩みがある。

それは…。


「…。」

「零一さん…。」

大好きな、零一さんの部屋で、大好きな、零一さんの綺麗な顔が近づいてくる。

私は瞳を閉じ、お互いの呼吸が分かるほどになった。

あぁ、これから甘いキスが繰り返されるんだ、そんなことを思いながらこの僅かな時間を楽しむ。


と、私はあることに気づいてめちゃくちゃ慌てた。

慌てて、とっさに零一さんの顔を押しのけてしまった。


「――ダメェェッッ!!!」

「うっ…!」


怖くて瞑っていた瞳を開けると零一さんが「何故だ?」という顔で私を見ている。

そして、その場は一気にダークネス突入。


「し、…?」

「…ぁっ…ご、ごめんなさい、零一さん…ッ!」


その表情に耐えられなくて、私は飛び出してしまった。

っ!」

後ろから私を呼ぶ声がしたがそんなことお構いなし。

私の、ただ小さな悩みで大好きな人を傷つけてしまった。

今更後悔して、私はただ走り続けた。


そして、行く先は近くにあった公園。

そこのブランコに腰を下ろした。


「…バカ、だなぁ、私…っ。」


そう呟いて、自分の指先を唇に当てた。

触りながら心が痛んだ。


「これじゃぁ…キス、出来ないよぉ…したいけど…っ。」


でも、こんな理由で零一さんを傷つけてしまった。

もう訳も分からなくなって、無性に涙が溢れた。

「…ぅう〜ッ…クッ!」

桜も散り始め、花びらが足元に落ちた。

それを目で追うと、いつの間にか私の足元に、花びらと、見慣れた靴があり、見慣れたあの人が立っていた。



「……。」

「…ヒッ…ック…!れ、零一さんっごめんなさい!!」


抑えきれなくなって私は零一さんに抱きついた。


いきなりの行動に驚いた様子だったが何も言わず、抱きしめてくれた。


やっぱり、私は、大好きなんだ、零一さんのこと…。



「…落ち着いたか?。」

「うん…本当にごめんなさい…。」

優しく涙を拭いてくれて頭を撫でてくれた。

それだけで私の心は暖かくなる。


「さて…じゃぁ、どうしていきなり飛び出して行ったんだ?」


ちゃんと零一さんに伝えよう。

女のプライドなんか捨てて。

だって

大好きな人だもの。


「あ、あの…笑わないでね?…わ、私、この時期になると唇が荒れるの。今も荒れてて…恥ずかしかったの…。」

零一さんの表情を見ると、目が点の状態になっていた。

それから、ゆっくりと微笑み、手を私の顔に添えてきた。


「それなら…。」

「…んっ。」


いきなりのキス。


零一さんの後ろに見える桜の鮮やかな桜色が目に留まる。

「…俺がこうして、直そう…。」

そう呟いてまた、先ほどとは違う、甘いキスをしてきた。



結局、私の毎年の唇の荒れは、零一さんのあまぁ〜いキスによって直されて行ったのだった。

毎年直されるので私にリップがいらなくなった。

そして、今日もそれが繰り返される。



甘い、甘い、大好きな人からのキス。



                             fin.

あとがき

いや、女の子って唇がガサガサのときキスしたくないですよね?私はそういうカンジでしたけど。ま、先生に毎日キスしてもらったらすぐに治ることでしょう(笑)

読んでくださいましてありがとうございましたv

2003 4 22 伊予

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