最初は

侮蔑と

嫌悪と

興味だった。

彼女の証は

僕の中に

いつの間にか刻まれていた。






ここ







「――ルーナ、あの人綺麗な顔してるね…。」

ホブワーツの組決めの後、早速友達になったルーナに赤毛の末っ子、ジニー・ウィーズリーは話し掛けた。

話題は、一番近い歳の兄の学年にいる綺麗な人について。

ちょうど、このごちゃごちゃしている階段の少し上にいた。

「あの人?ジニー、あんた、あれ、スリザリンのドラコ・マルフォイだよ?」

「…ドラコ・マルフォイ…。」








よく兄たちがスリザリンのマルフォイとか言っていたのを思い出した。

兄たちの話では、あんまり…いや、カナリ毛嫌いされてる人。







「興味あるの、アイツに?」

ルーナの大きな瞳がジニーの空色の瞳を覗き込んだ。

「えっ?!う、ううんっ別にっ。」

「―まぁ、あんたの好きだけどね。」

ルーナは早々と寮に戻り始めた。






――そんなに悪い人には見えないけど――

彼が見えなくなるまで、ジニーはその場所から動かなかった。










やっと今年の面倒くさい組み分けが終わって、スリザリンの王子は一息ついた。

外野の輩がうるさいが足早々に寮に向かった。









ふと。









階段の下を見ると、目立つ赤い色が見えた。










「…あれは…。」









一瞬。

燃える様な赤い色の花に見えた。











「…ウィーズリーの末っ子か。」

その赤い色には見覚えがあったから、グリフィンドールの赤毛兄弟を思い出した。





――確か、前一回だけ会ったな――



あれは教科書を買いに行ったとき。

目に涙を浮かべて父上と僕を睨んでいた。











「………。」

別段と興味を引くこともなかった。

ただ、彼女の赤い色がいやに目に焼きついた。










「ジニーっ!」

ジニーたち一年生がやっと学校に慣れてきた12月。

廊下の前に山積みになった本からハーマイオニーの声が聞こえた。

「ハーマイオニー?どうしたの、この本の山?」

「読みたいの探してたら、こんなになっちゃって…。ジニー、手伝ってくれない?」

「えぇ、いいわよ。」

山積みになった本を半分持とうとしたとき、背の高いロンと黒髪のハリーが廊下の先から歩いてきた。

「またこんなに持つの、ハーマイオニー?」

「あら、いけないかしら、ロン?」

おなじみのロンとハーマイオニーはなんだかんだ言いながら、本を持つ。

ハリーも手伝って、あっという間に三人で持って消えていってしまった。

呆然としているジニーの後ろから毒づいた、けれどよく通る声がした。












いつの間にか、目で追っているのに気がついた。

嫌に目に付く赤い色だから。

だから、今もそうなのだと思って。

彼女に話し掛けた。












「――まったく、あのガリ勉のグレンジャー嬢は君の兄をこき使うんだな。」










この声に聞き覚えのあったジニーは一瞬耳を疑った。

幾度となく、兄たちと口論している声。









「…ドラコ・マルフォイ…。」

「おや、僕を知っているのかい、ジニー・ウィーズリー?それはそれは、光栄だね、赤毛の姫君。」

あの独特の笑みを浮かべて、彼は歩いてくる。

ジニーの前にドラコが立つと頭一個分違った。

やはり、悪い人には見えなかった。









「…何か、用があるの?」







やっと吐き出した声は酷く震えていた。

怖いはずも、緊張しているはずもないのに。

きっと、初めて二人で顔合わせで会話をしているから。






「…いや。特にはないさ、姫君。ただ、君の髪の毛の色が目に入ったから。」

「……この色は生まれたときからこの色なの。貴方のその色も生まれつきでしょ?それと同じよ。それに、貴方の目に入ろうが入いらまいが、私には関係のないことよ。」







ドラコが近くによってジニーの髪の毛を一束すくった。










「今まで、この色は気に入らなかったのに、今はどうして気になって仕方がないだ、僕は。」

「え?」












「君の兄たちは、どうしてこんな色じゃないんだろうね?くすんだ、みずぼらしい赤をしている。」

ドラコがその言葉を吐いた途端、廊下に乾いた音が響いた。















今でも悪い人とは思っていない。

むしろ、興味があった。

兄たちの口論を聞くたび、どうして、そんなことを言えるのだろうとずっと思っていた。










汚い言葉を交わしたあとの彼は悲しそうに見えたから。













ジニーの上げた掌は少し震えていた。

「意気地なし…貴方は意気地なしだわっ!いつも自分を偽って…!」








少し涙目の彼女は踵を返して、彼の脇を通り過ぎて、走り去った。









ジニーに叩かれた頬は赤く腫れだし始めた。






「…意気地なし、か…。この、僕に…。」







―――そう言ってくれるのは、君だけだよ――ジニー・ウィーズリー――









頬に手を添えて、ドラコは呟いて、気づいた。











最初は侮蔑と嫌悪と興味だった。

彼女の証は僕の中にいつの間にか刻まれていた。

何故彼女を目で追っていたのか。

何故、話しかけたのか。








「…僕が、ここに居た証を…。」
















彼女に刻み付けたいから。

fin

あとがき。

初ドラジニです。SSnovelに書いた「ここに居た証」のロングバージョン。自分的に気に入っていたので、書きました。

つーか、うちのドラコ、変な人になってますね。

初めて書くカプはしどろもどろ;

読んでくださってありがとうございました。

2004 12 8 伊予