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Hold me, and please kiss me.









「――まったく…またこんなに傷を…。」







昼間、人間台風のヴァッシュ・ザ・スタンピードはまた事件を起こした。

いざこざを止めようとして、被害が出る。

彼を監視している保険屋の片割れ、メリルは何度目か知らない言葉を口に出した。





「あはは…ごめんごめん、保険屋さん。」

語尾にいててと付け加えたお人好しの災害指定は頬を緩ませて笑顔を作った。






メリルは溜息をついて、救急箱をしまう。







ふと顔を上げて外を見ると、今夜は月も星も出ていない闇の夜だった。







ベットの枕元に置いてあるランプの明かりしかない。







「…こんな夜もあるんですのね。」






「あぁ。いつもは月も星も出ててかなり明るいからね。たまには今夜みたいな夜だってあるよ。」

さらっとメリルの呟きを彼は返した。












この夜の色が、自分の髪の毛の色とおんなじように思える

それは私の心を後押しするのに躊躇いもなかった

彼に囚われてしまったのなら







今夜だけ






今夜だけお願い










窓の外をぼんやり見ているメリルにヴァッシュはいつものように声をかけたつもりだった。

「どうしたの、保険屋さ―――。」







そう言い掛けて、メリルが振り向く。






ランプの明かりしかないこの部屋で、彼女はとても幻想的に浮かび上がる。

無言のままメリルは近づいてきて、ランプを消した。










明かりを失ったこの部屋には本当の闇が。

夜と言う名の静寂が訪れた。











目が少しずつ慣れて、ヴァッシュが顔を上げると同時に頬に手が添えられた。











それは誰の手か、すぐに分かることで。

「――メ、リ――」

発した言葉は最後を言えずに遮られる。










降ってくるのは暖かい感触と彼女の髪の毛が流れる感触。











衣擦れの音がして、メリルの唇がヴァッシュの耳元で囁いた。












「……お願い。…今夜だけ…。今夜だけ――。」














その囁きも遮られ、『夜』が訪れる。













二人だけの。






end

残暑お見舞い用に書き下ろしたものです。