酷く胸が苦しくて


貴方の胸に蹲る

貴方はびっくりしたようだけど


やっぱり余裕を見せて

あたしの肩を抱いた



また胸が苦しくなる



鼓動がうるさい



お願い




夏の帳で




全部隠して


















寝つけなくて、あたしは浜辺に出た。

いろいろなことが起こりすぎて、頭の中は滅茶苦茶で。

それに輪をかけるように、毎日が暑い。

公園で咲き誇っている向日葵を見てもやっぱり気分がよくならない。

「…夏バテしないのになぁ…あたし。」

海風が冷たくあたるなか、一人で呟いた。

足元の砂を手にとって、さらさらと手の内からこぼす。





「――こんな時間にこんな場所で何やっているんだ、トリス。」

いつの間にか聞き慣れた、あたしの心を乱す声。それでいて愛しい声が後ろから聞こえた。





「…寝つけなくて…。」

それだけ口から搾り出すと、手の内にあった砂は全部なくなっていた。





「…まったく。」

ネスはそう言って、あたしの隣に腰を下ろした。

さっきから、胸の鼓動は鳴り止まない。ネスに聞こえるんじゃないかと思うくらい激しく。






苦しくて、切なくて。






あたしの唇は切れて、血の味がした。






「…トリス。」







ネスの声がして、指が頬にきて、次に柔らかい感触が唇にした。







月明かりが全てを映し出す。






「…ネス…ネスぅ…ッ!!」

口からはその言葉しか出なくて、彼にしがみついた。








「――僕がいるということを君は忘れているんじゃないのか?トリス…。」








頬に何かが流れた。





次々と降る唇の感触に安心しながら、胸の鼓動は早まる。





きっといつか、ネスに知られちゃうんだろうな。






頭の片隅でそう思いながらあたしはネスに身体を預けた。






それは全て儚い









夏の夜の夢














fin


残暑お見舞い用に書き下ろしたものです。