ある午後の昼下がり。

剣の都ワイスタァンでも三時のティータイムが近づいていた。

それより一刻ほど前。







仕事の息抜きに外をブラブラしているヴァリラが居た。

昨日のある事件で負傷してしまったケノンでも見舞ってやろうかとぼんやりした頭で考えていた。

そんな風に考えながら足は港が見える高台に向かっていた。

高台につくと港を見た。

今日は、はるばるサイジェントからプラティを尋ねて来たナツミとソルという二人組みがワイスタァンを発つ日だった。

初めて会ったが、プラティが尊敬するのもわかった気がした。

少し上の年だというのに、何か違う雰囲気を出していた二人。

だけど、元青玉の聖鍛ご自慢のカレーなる食べ物を前にナツミは涙を流しながら食べていて、それを見てるソルはゲンナリ顔をしていたし、作った本人はさも満足気な顔をしていて、異様な光景だったが、それでもプラティは嬉しそうな顔をしていた。

そのプラティの顔を見ていたヴァリラはなんともいえない感情に囚われていた。






下の港からはヴァンスにつなぐ定期船が出航する汽笛が鳴っていた。

そこには、精一杯手を振り、ナツミたちを見送るプラティの姿が。

船が見えなくなるまで港に立っていて、そして寂しそうに帰る姿。

ヴァリラはそれを見て、鼻の奥で「ふん」と笑った。








俺が好きになったプラティはそんな腑抜けじゃない









多分、きっとプラティ自身はこの「好き」を理解していないだろう。

元気を振りまく彼女に、こんなにも惹かれていった自分。

改めて知る隠そうとしていた感情。






「――くそっ…!ただの…ヤキモチじゃないか、これじゃ…!」

自分はいつも特別だと慢心していた。

サナレやラジィ、シュガレットとは違うと思っていた。

きっとそうなのだろうけど、やはり他の者に笑顔を振りまくプラティがとても憎い。









「――――だーかーらー、ちゃんとそのことをアネキに言わなきゃ、ダメだよ、ヴァリラ?」

背後から幼い、少年か少女か見分けがつかない声がした。

「…この俺の盗み聞きとはいい度胸をしているな、ラジィ…!」

自分の心情を隠そうと、いつもの独特なつり笑いを浮かべて後ろのラジィを見た。

「ボクは前からいたよ、ここに。ヴァリラが気がつかなかっただけだよ。」

「それならば、声をかければ良いだろう。」

「だって、ヴァリラいつにもまして怖かったんだもん。」

そのラジィの言葉に、ヴァリラははっとして、自分の頬に手を置いた。

たしかに、自分は怖い顔をしていたのかもしれない。

「ヴァリラ、自分で待ってちゃダメだよ?ボクがいうのもなんだけど、アネキは、その点に関しちゃ本当に子供なんだから。」






気づかないのなら、気づかせてやる。







「…で、そんなヴァリラに。もうすぐ、午後のティータイムですっ。ちなみにアネキはこの頃、仕事で忙しくて、少し落ち込んでいます。あの事件やナツミさんが着て、以前とは違うけれど、やっぱり少し落ち込んでいます。

あ、アネキ、ケーキ大好きだからね、果物がいーっぱいのった。」

少し悪戯な瞳でラジィはそんなことを言った。

それを聞いてヴァリラは歩き出した。もちろん、ケーキを買いに。

「…やはり、お前は美人になるぞ、ラジィ。プラティほどではないが。」

そんなことを言って、帝王の貫禄さまさまにケーキ屋に向かった。












ナツミたちを見送って、再び、中央工城の自分の執務室に戻ったプラティ。

今までの仕事が溜まって、机の上の書類にゲンナリしている。

「うわぁ〜…そりゃ、ナツミさんが来てから、お仕事あんまりしてなかったけど…これはあんまりだよぉ〜…!」

書類の山を睨みながら、そんなことを呟いた。

時刻は花のティータイム。

「うぅ、ケーキ食べたいなぁ…。」

と、簡単なノックがしたあと、いつもの受付の青年が入ってきた。

「どうしたの?」

「ヴァリラ様が来ていらっしゃいますが、どうしますか?」

いつもなら、その青年はプラティの惨状を把握してるので、「お引取り願いますか?」などといったことを言うのだが、今日はにっこりと笑顔で用件を述べた。

「え?ヴァリラが??なんだろう…、うん。通してください。」

「わかりました。…お茶をお持ちしますね。」

「はい?」

またまたにっこりと笑顔で部屋をあとにする受付青年。

彼のいつもとは違う雰囲気に目を丸くするだけだった。








しばらくするとさっきと同じノックのあとに、お茶を持った青年の後ろに、小さな箱を持ったヴァリラが入ってきた。

執務室の来客用セットに座らされる。

やはりにこにこと青年はお茶を並べ、「では、ごゆっくりと」と言って、出ていたった。

その勢いに押されて、やっぱり目を真ん丸くするプラティ。

理由を知っているのか、ヴァリラは目元に手を置いて俯いている。

「…なんか今日はヘンだったなぁ…あの人。」

「…あぁ。」

溜息と同時にそれだけ呟いてヴァリラはむずかしい顔をした。

「で、ヴァリラどうしたの?ヴァリラが尋ねてくるなんて珍しいね。」

「いや…っ。」

ラジィから、少し落ち込んでいるからアネキの大好きなケーキを持って慰めて来い(意訳)なんていう理由で着たなんて口が裂けても言えない。

けれど、笑顔でいるけど、少し影が落ちてるような表情を見て、素直に自然にその言葉が口から出た。







「…ナツミたちが帰って、寂しい思いをしていると思ってな。それに休憩するのは良い時間だから、ほら。」

そう言って、小さな箱をテーブルの上に置いて、開けた。





「…え?……わぁ、ケーキ?!」

身を乗り出してケーキの入った箱を覗くプラティ。

とても滑稽に見えてヴァリラは笑みを浮かべた。

ご丁寧にも取り皿まである。

「ありがとうヴァリラ!わたし、さっきからケーキ食べたいなって思ってて…!それに…やっぱり、お見通しだね…あはは。」

「まったく…今度はお前が会いに行けば良いじゃないか。」

「え…?」




いつものように振舞っているけれど、やっぱり心は高鳴っていた。




「ま、その時はお前が迷わないように俺も行かなくてはいけないんだろうけど。」

わざとらしく大きく溜息を吐く。




「…さっさと食べるぞ、プラティ。」

「う、うん…!ありがと、ヴァリラ。」





さっきとは違う、声色と表情で言われて、一際高く鐘が鳴っている様。

それと同時に、もっと自分だけにと思ってしまう俺は欲張りなのかと思う。










「……俺の気持ちには気づいてないんだろうな、こいつは…。」

「え?何か言った?ヴァリラ??」

ケーキを頬張り、幸せそうな顔で食べているプラティが言った。

何度目か知らない溜息を付いてヴァリラはいつものように言った。

「いや、なんでもない…口にクリームが付いてるぞ。」

「はえ?」










とても自然に、ヴァリラはプラティの口についているクリームを取って、ペロッと舐めた。












「……!!」

「?どうした?」

「あ、あのっ!えっと?!」







プラティ自身、どうして頬がこんなに熱くなるか、わからない。その気持ちを知るのは数年後。







段々と真っ赤になる頬が、可愛くてヴァリラは頬を吊り上げて笑った。











やはり、欲張りなのだと思った。

fin

あとがき。

サモクラ小説読んでまた萌えが出てきました。

もう…ヴァリラ→プラティに萌え(吐血)

一応、これは小説の少し後ってーことで。

読んでくださいましてありがとうございました。

2004 8 26 伊予