甘い







パキンッと一口。






ナツミは鞄に入っていた最後のチョコを口にしていた。

「うぅ…これで最後かぁ。この世界にチョコってあるのかな。」






そんな独り言を隣にいるキールは本を読んでいてもちゃんと聞いていた。

むしろ、聞こえる。








「ナツミ、その『ちょこ』とはなんなんだい?」

読んでいた本を閉じ、ナツミが手にしている茶色の固形の食べ物を指差す。








「ん?んーっと…あたしの世界でのお菓子かな?リィンバゥムでもお菓子あるでしょ?それと同じ。ただ、この世界にあるかどうか…。」






あたしの一番好きなお菓子なんだけどね、と付け加えて、二口目を口にした。









その美味しそうなナツミの顔をじっと見るキール。

その視線が痛くてナツミはチラッとキールを見た。










そして、恐る恐る聞いてみる。







「――キールも、いる?」








食べかけのチョコをキールに差し出してみる。

その様子に驚いて、キールは慌てて言った。







「いや、その…。大丈夫だよ、ナツミ。最後のなんだろう?」

「でも、こんな美味しいの知らないキールが可哀相だし。それに、ちょうど今思い出したこともあるから、あげる。」








照れ笑いをして、思い出すことは、前にいた世界でのチョコに関する習慣。

――そういえば、あたしはどっちかというと貰う側だったなぁ…。









そんなことを思い出して、またキールを見た。








目が合って、お互い笑いあった。









彼のこんな表情を見るのは自分だけの特権だと自負する。








そして、キールも口を開いた。

「…じゃぁ、貰おうかな。」

ナツミから食べかけのチョコをひょいと取り、口に運ぶ。









「――甘い、んだね。これ。」








茶色の外見とは裏腹に、とても甘くてキールは驚いた。









「ありがとう、ナツミ。」









彼のその言葉が響いて、心地よくなる。










「どういたしまして。」









彼女のその言葉が響いて、安心する。












笑いあって、交わした口付けはとても甘かった。







あとがき

キールは甘党だと思います。っていうか甘いのは貴様らの方だとこれ書いてるときぶちぎれてました(え)

読んでくださいまして、ありがとうございました。

バレンタインフリー小説なので、持っていってください。

サイト等に飾ってくださる場合は私が書いたと明記してください。

2005年2月12日 伊予