明日






「キール、そんなとこにいないでさ、キミもこっちきなよ!」

ナツミにアルク川の上流に行かないかと誘われて、半日以上歩いてここ、上流に着いた。

ナツミは着くなり、靴を脱ぎ、現在のように水に入って遊んでいる。

キールはというと、川際の岩の上でナツミを見ていた。

「いや、いいよ。ナツミ。川際にいるだけで涼しいし。」

「もう、誘いに乗らないなぁ!」

キールの返事に少し頬を膨らませてナツミは抗議した。









何故、今日、こんなところにいるのかというと昨日の屋根の上での会話に戻る。

数週間前、ガゼルたちとアルク川に花見をしに行った。

まぁ、あの兄弟たちと一悶着あったが、それなりに楽しかった。

でもなんだか、ナツミはキールが微妙な気がして。

アルク川の上流はどうなんだろうね、キール。明日行ってみない?

と、なったわけである。

もちろん、少しの休みもかねて。









(…なんだか、無理やりってカンジで…いけなかったかなぁ…)

さっきのキールの返事を聞いて、少し、そんな気持ちに囚われた。

膨れっ面のまま、ナツミは足でパシャパシャと水を蹴った。






「…そういえば、ナツミ。」

「なに?」

彼から声をかけてくることは滅多に無い。

だからナツミは目を輝かせてキールの方をみた。






「そこらへんは滑りやすくなっているよ。」






キールが言うなり、ナツミは「え?」と言ったと同時に水を被った。








その一瞬の様子をいつものぼーっとした眼差しでキールは水面を見た。

実際驚いていたりもする。

ナツミがなかなか顔を上げない。

やはり早く教えるべきだったか、と頭の中で繰り返す。








「ナツミ…だいじょ。」

「こっのぉぉぉっ!!!」

キールが言いかけて、ナツミが顔を上げた。

上げただけじゃなくて、水もいっぱいついてきた。

すぐにキールもナツミのようにぐしょ濡れになった。










「……。」

「もうっ!人が心配して、こんな素敵な良いところに誘ったのに!もう少し、楽しそうにしてよね、キール!それに、滑りやすいんだったら、早く言う!!」







一気にセリフを口にすると、息を荒立てて立った。







「……っく…っははっ…あはははっ!」

その様子を見て、キールは声を上げた。

なんだか、面白い状況だ。








「…キール?」

「すまない、ナツミ。き、君の様子が…面白くて…っ!それに、すまない。僕は…やっぱり感情を口にするのが下手なんだよ。」

苦笑いを浮かべて、ぐしょ濡れになった。








「本当は、君に誘われて、嬉しかったんだ、ナツミ。」






それを聞いて、ナツミは微笑んで。






「ちゃんとそれを言ってよね、キール。遅くても良いから。」

「あぁ、判ったよ。…明日。」

「え?」

「明日は僕がどこかに誘うよ。今日のお礼に。」








ちょっと躊躇いがちに言った。









水に濡れて、はたから見ると良いことはないのに。

なんだか、明日も近づける気がした。












二人してぐしょ濡れで、夕方、アジトに帰ったらリプレに散々怒られてしまった。


あとがき

アルサックの花見の時期って春ですかね?春なら、寒いですよね、水遊び(汗)

読んでくださいまして、ありがとうございました。

2005年2月6日 伊予